筆者がもう一つ違和感を覚えたのが、鍵の交換費用だ。額は2万2000円。契約書には盛り込まれず、交換の要否は借主の自由とのことだった。
これはおかしい。鍵は前住居者が使用していたもので、合鍵が作られているかもしれない。入居者にとってはリスクだ。「鍵の交換は自由」と言うが、「安全を考えるなら自分で費用を出して鍵を交換しろ」と言っているに等しい。
再び国交省のガイドラインを見てみると、「鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)は賃貸人の負担」としている。家の安全確保は重要な要素であり、貸主がそれを担保する責任がある。だからこの費用は家賃に含まれるのが妥当だろう。
しかし、これも実際には守られていなかった。何のためのガイドラインなのだろうか。
「トラブル防止」は大家のため
もちろん裁判を起こし、前述の特約3要件のいずれかに該当しないこと主張すれば認められるかもしれないが、わざわざそうする人はいないだろう(説明は省くが、適格消費者団体による訴訟制度を活用する方法もある。これで敷金の有効性を争う訴訟が提起されている)。
ご丁寧なことに、契約時、筆者は不動産会社から東京都の「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」まで交付された。ここでは「当該契約における賃借人の負担内容について」の項目にも「退去時のルームクリーニング代金とエアコン内部洗浄代金は賃借人負担とする」と書いてあるのだ。すなわち、借主(筆者)に不利な契約内容を書面で明記することが「紛争防止」なのだ。これでは貸主のために紛争防止であって、消費者(借主)のためのものではない。
当然、消費者には「契約の自由」がある。こうした内容に不服なら契約を拒否できる。契約しない自由もあるからだ。しかし、交渉によって契約内容を決める自由はない、あるいは乏しいのが現状だ。契約しなければ生活できない場面は多々あり、「契約しない自由」があるのかも怪しい。借主である消費者は明らかに不利な立場に置かれ、特約をしぶしぶ受け入れなければならないのだ。
ネットには入居時・退去時にトラブルやぼったくりを防ぐためのコツ・交渉術などを教える動画も多く出回っている。しかし、こうした制度根本に疑問を持つべきではないか。