通常損耗や経年変化は、誰が住んでも、通常通りに部屋を使用していれば生じると予想される劣化だ。具体例として、日焼けしたクロスや畳、家具の設置跡がついた床やカーペットのへこみ、テレビや冷蔵庫等の後部壁面に発生した黒ずみ等がある。
敷金についても改正民法で定義され、賃料などを担保するために納める保証金のようなものだと定義された。賃貸借契約が終了して賃借人が部屋を明け渡した時点で、賃貸人には敷金を返還する義務がある。
特約は本当に「合理的」なのだろうか
しかし、これで問題が解決したとは言えないのが現状だ。
賃料滞納や原状回復費用などの債務がある場合は、敷金から差し引いて返還されることになるが、通常損耗や経年変化について賃借人に原状回復義務を負わせる「特約」(賃貸借契約における特約事項)については、改正民法で明記されていないのだ。したがって、過去の判例等で判断するしかない。
これまでの判例等では「特約」が有効となるのは、以下の3要件が必要であるとされる。
(2)賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
(3)賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
実例を挙げよう。今回の賃貸借契約書の特約事項にこう書いてあった。
「退去時のルームクリーニング代金とエアコン内部洗浄代金は乙負担とする」(筆者註:乙は筆者)
国土交通省が出している「原状回復に関するトラブルとガイドライン」という冊子がある。ここには「退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のため、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準」が示されている。
クリーニング業者は自由に選べず、鍵交換代は借主負担に…
そこには以下の記述がある。
●全体のハウスクリーニング(専門業者による)
(考え方)賃借人が通常の清掃通常の清掃(具体的にはゴミの撤去。拭き掃除、掃き掃除。水回り、換気扇、レンジ周りの油汚れの除去等を実施している場合は、次の入居者確保のためのものであり、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。
●エアコンの内部洗浄
(考え方)喫煙等による匂い等が付着していない限り、通常の生活において必ず行うとまでは言い切れず、賃借人の管理の範囲を超えているので。賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。
いずれも貸主(大家)負担が妥当と書かれているが、実際には特約によって借主負担にされてしまっているのだ。筆者のケースも同様だった、冒頭で紹介した通り、ここに交渉の余地はなかった。さらにハウスクリーニング代が安価に済む業者を自分で探すと提案したら「それはちょっと」と断られてしまった。