仕事を任せることは楽しみなことである

既存の仕事ではなく、企画の提案も含めて、新しい仕事を任せるときにはどうすればいいのでしょうか。

昨年末、中国のとある展示会に若手を含め、約20人の社員を連れていきました。chocoZAPで展開する新サービスや改善策を社員に考えてもらうのが目的です。経験を積むと会社の都合でものを見るようになりがちですが、若手はユーザーの立場に近く、いい意味で業界の常識に縛られていません。発表してもらうアイデアは一人3つで、計60個が出ました。その中からchocoZAPの新サービスに採用されたものはいくつもあります。

私が新サービスの採用基準で重視しているのは、アイデアがプランに落とし込まれているかどうかです。実は以前の我が社は、良さそうなアイデアがあればすぐ実行に移していました。PDCAならぬ、「IDEA→DO」のIDCAです。IDCAはスピードが速くていいのですが、プランなしに実行すると事後の振り返りができず、学びを得られないケースがよくありました。成功しても再現性がなく、失敗したときは原因がわからず改善につなげです。

私は失敗することを前提に、計画、設計、実装、テストの各工程で検証作業を繰り返す「アジャイル開発」的なサイクルを回したほうが正解に近づきやすいと考えています。だから自分自身よく失敗しますし、任せた人が失敗しても気になりません。ただ、失敗から学びを得るには、後で検証可能なプランが必要です。そう痛感してからは、たとえ熱心にアイデアを提案されても、プランを詰め切れていなければゴーサインを出さないようにしています。

逆にプランに落とし込まれていれば、提案した社員が経験不足でもとりあえずやらせます。プランをつくってプレゼンすれば、当事者意識が芽生え、本気になって目的を果たすための手段を考えます。当事者意識が強いと、失敗したときの精神的なダメージは大きくても、その経験が生きた学習材料になる。本人の成長という観点でも、プランをつくったうえで挑戦させることが大事です。

一方、任せる側もプランを見たときに良し悪しを判断できるくらいの最低限の知見が必要です。自分が得意ではない領域ほど人に任せたほうがいいとはいえ、我関せずでは適切なサポートができません。自分が苦手な領域でも、基本は押さえておくべきです。

リーダーは、いわばオーケストラの指揮者です

私は創業当初、会計が大嫌いでした。しかし、経営者が経理や財務を知らずに人に丸投げするのは危険です。最初は簿記3級を受けても落ちるレベルでしたが、勉強を続けて今では財務担当者にツッコミを入れられるくらいになりました。任せる側も成長しないと、任せ上手になれないのです。

リーダーは、いわばオーケストラの指揮者です。楽団員より優れた演奏技術を持っていなくてもいいですが、楽器や演奏者をよく理解てこそ一人一人のパフォーマンスを引き出し、オーケストラとして最高の音楽をつくりだすことができます。

今年は中国の展示会に、新卒を含めて約100人の社員および関係者を連れていく予定です。そこからどのようなアイデアが生まれるのか。今から任せるのが楽しみです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月17日号)の一部を再編集したものです。

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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