犬が他人にケガをさせた場合、飼い主にはどのような法的責任が生じるのか。弁護士の尾又比呂人さんは「飼い主には損害賠償義務が発生する。特に、相手に後遺障害を負わせてしまった場合には1000万円を超える損害賠償となる可能性がある。それは“噛みつき”に限らない」という――。
ボールをくわえて駆け寄るごきげんなゴールデン・レトリーバー
写真=iStock.com/ChrisBoswell
※写真はイメージです

一番多いのは「他の飼い犬に噛みつくトラブル」

飼い犬を散歩する際は、しっかりとリードを着けるなどし、適切に管理する必要があります。

仮に、他人や他の飼い犬に怪我を負わせてしまった場合には多額の損害賠償金を支払わなければならないリスクがあり、また場合によっては刑事罰が科される可能性もあるのです。

本記事では、散歩中の犬の噛みつきトラブルについて、法的な観点から解説します。

1 他の飼い犬に噛みついてしまった場合

まず、散歩中に一番多いトラブルは、飼い犬が他の犬に噛みつき、怪我を負わせてしまったというものです。この場合は、どのような法的責任を負う可能性があるか、以下概説します。

①民事上の責任

動物の飼い主は、当該動物の占有者として、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負います(民法第718条1項本文)。飼い犬が他人の飼い犬に噛みつき、怪我を負わせた場合、原則として当該加害行為と相当因果関係が認められる範囲の損害を賠償する義務が発生します。具体的には、治療費、入院費、通院費等がこれに含まれます。

これについて、ペットが損害を受けた際には、慰謝料の請求ができるのかという法的問題があります。

この点、確かに、法律上ペットは「物」として扱われていますが、「物」の破損により慰謝料の支払義務が生じる可能性もあります。

通常、慰謝料は精神的損害の補塡ほてんという意味合いが強いものであり、「物」が毀損きそんした場合には、財産的価値が補塡されることで精神的損害も補塡されたものとみなされます。しかし、ペットは飼い主にとって家族の一員であり、時価額賠償だけでは精神的損害が完全に補塡されたとはいえないことがあります。

実際に数十万円の慰謝料を認める判例もありますが、他人に噛み付いた場合と比較すると少額な慰謝料額にとどまることが多いです。

「犬の時価額」以上の治療費などを認めた判例も

次に、ペットのトラブルでよく問題となることとして、ペットは法的に「物」とみなされるため、当該「物」の時価額以上の損害が発生した場合には、当該時価額を超えた損害を賠償する義務は生じないのではないかというものがあります。

これについては、治療費等の上限を犬の時価額とするのではなく、当面の治療や、その生命の確保、維持に必要不可欠なものについては、時価相当額を念頭に置いた上で、社会通念上相当と認められる限度でこれを認容するとした判例があります(名古屋高判平成20年9月30日、交民『交通事故民事判例裁判集』41巻5号1186頁)。

したがって、かかる考え方によれば、治療費等の上限は犬の時価額には限定されない可能性があります。