飼い主の責任の免除は認められ難い
なお、民法第718条第1項は、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、損害賠償責任を負わない旨規定しています。
相当の注意とは、通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常な事態に対処し得べき程度の注意義務まで課したものではないと判示されておりますが(最判昭和37年2月1日、『最高裁判所判例集(民事判例集)』16巻2号143頁)、相当な注意義務をもって飼い犬を管理していたと飼い主の損害賠償責任を免除した裁判例は少なく、犬の噛みつきトラブルについては、ほとんどの場合、かかる責任の免除は認められ難いものと考えられます。
②刑事上の責任
上記のとおり、犬は法律上「物」と扱われるため、飼い犬が他人の飼い犬に噛み付き怪我を負わせた場合に成立し得る刑法上の罪は器物損壊罪です。しかし、器物損壊罪は故意犯でしか罰せられないため、これが成立する可能性は低いです。
人に後遺障害を負わせると1000万円以上の賠償になることも
2 他人に噛み付いてしまった場合
次に、散歩中に飼い犬が他人に噛み付き、怪我を負わせてしまった場合についてどのような法的責任を負う可能性があるか、以下概説します。
①民事上の責任
犬の飼い主は、飼い犬が他人に噛み付き損害を負わせた場合、上記の飼い犬同士の場合と同様、当該加害行為と相当因果関係が認められる範囲の損害を賠償する義務が発生します。
もっとも、ペットの場合と異なり(犬も盲導犬等特殊な場合にはこれが認められる可能性がありますが)、人に後遺障害を負わせてしまった場合には、1000万円を超える損害賠償義務が発生する可能性があります。
また、人の場合には、犬の場合と異なり、数百万円の慰謝料が発生することもあります。
例えば判例では、男性が飼い犬にふくらはぎを噛み付かれたことからPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、逸失利益として、約569万円、慰謝料として150万円の損害を認めています(名古屋地判平成14年9月11日、『判例タイムズ』1150号225頁)。
②刑事上の責任
ペットが人に怪我を負わせてしまった場合には、刑法上、過失傷害罪、場合によっては重過失傷害罪が成立する可能性があります。
人に噛み付く癖がある、力のある大型犬である等の事情があり、ノーリードで飼い犬を散歩させたような場合には、重大な過失があるものとして重過失傷害罪が成立する可能性があります。