自分の裁量で公私を切り分けられているか

皆さんは仕事と私生活の切り分けができていますか。家でも仕事のことでイライラして家族に迷惑をかけていませんか。本当は有給休暇を取りたいのに職場で言い出せず、モヤモヤがたまっていませんか?

厳しいオフィス環境でストレスを感じているビジネスパーソン
写真=iStock.com/PeopleImages
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仕事と私生活の線引きを自分で管理することを「境界マネジメント」(Boundary Management)と言います。欧米では2000年頃から関連する研究が行われてきましたが日本ではほとんど知られておらず、初めて聞く人が多いと思います。

共働き世帯の増加や性別役割分担意識の希薄化が見られる中、仕事と私生活を両立させたり切り分けたいというニーズは確実に高まっています。働き方改革や男性の家事・育児参画、女性管理職の増加など社会的な機運や制度の後押しはあるものの「職場に浸透し、活用できているか」というと十分とは言えません。

特にコロナ以降、リモートで働く人が増えました。通勤時間が節約でき柔軟な働き方ができるようになったなどプラスがある一方で、働く場が自宅であるため切り替えが難しく、容量以上の仕事を抱え込んだり残業が増えてしまうなど苦労している人も増えているようです。

パーソル総合研究所では23年9〜10月、全国の正社員(20〜50代の男女)1021人を対象に「仕事と私生活の境界マネジメントに関する定量調査」を実施しました。

その結果、境界マネジメントができているか否かが、ビジネスパーソンの人生満足度や就業意欲などに大きく影響していることが明らかになりました。本項ではこの調査結果をもとに、ビジネスパーソンが人生をより充実させる仕事との関わり方や私生活との両立について、考えてみたいと思います。

95%の人が「仕事と私生活は切り分けたい」と思っている

前提として、誰もが「仕事と私生活を切り分けなければならない」わけではありません。あえて公私を分けず「どこに居ても仕事のことを考えていたい。それが自分の人生の幸せなのだ」という人も、5%程度ですがいることがわかっています。そういう人は、無理に切り分けをする必要はないと思います。

一方95%の人は「仕事と私生活は切り分けたい」と思っているのです。問題は、その人たちが「自分は境界マネジメントができている」と思っているのかどうかです。

事前の聞き取りから境界マネジメントの方策として6要素を抽出しました。そのうえで、仕事と私生活の切り分けができている状態を「境界コントロール実感」で定義し、自分がどの程度の境界コントロール実感を得られているかを聞きました。

この問いにより、境界コントロールの重要性が改めて確認できました。境界コントロール実感が高いほど、継続就業意向や自発的貢献意欲、人生満足度が高まり、バーンアウト傾向が低減していることが明らかになったからです。

また、時間が十分にあれば切り分けがしやすく人生満足度を高められるのかと思いきや、時間不足感があっても境界コントロール実感さえ高ければ、時間不足感が低い人より高い人生満足度が得られることもわかりました。つまり、大切なのは「自分の裁量で私生活との両立ができている」という手応えなのです。