自分では任せ上手だと思っていましたが、それは勘違いでした。

考えてみると、子育てのときに親が何も関与せずに放置することはありません。子どもの能力や状況に合わせて、自由度を決めることが普通です。それなのに、仕事では任せっぱなしでも結果が出ると思っていた。いろいろと弊害が起きてはじめて自分は「仕事を任せてたのではなく、単に丸投げしていただけだ」と気づきました。そう反省してからは、同じ仕事を任せるにしても、任せ方を工夫しています。

制約条件を明確化する

具体的に意識しているのは、「制約条件」を明確にすることです。例えば子どもに自分のお小遣いの使い方を任せるとします。このときいくら使っても使いきれないくらいのお小遣いをあげると、子どもはいつまで経ってもお金のやりくりを覚えられませんよね。

人に子会社の経営を任せるときも同じです。いくらまでは親会社から貸し付けるとあらかじめ取り決めないと、子会社側に当事者意識が芽生えません。お金が尽きれば困る環境を整えてこそ、お金のマネジメントを覚えます。

制約条件を腹落ちさせるために、その条件が生まれた背景を理解させることも重要です。

今年3月、コンビニジムの「chocoZAP」は、「キッズパーク」や「カラオケ」など7つの新サービスを店舗に導入すると発表しました。店舗で洗濯機と乾燥機が利用できる「ランドリー」もそのうちの一つです。

これまで金銭的な事情で我慢していた自分磨きや健康のための活動を、月々2980(税込3278)円で思い切り楽しんでもらうとうのがchocoZAPのコンセプト。ご自宅に洗濯機や乾燥機を置いていないユーザーのニーズに応えるランドリーは、chocoZAPのコンセプトにも合致していて、社員から提案があったときはすぐにテストしたいと思いました。

ところが社内での検討作業を任せていた段階で、いつの間にか導入する乾燥機がコストの高いガス式になっていました。ガス式はパワーがあって早く乾きますが、導入コストがすごく大きい。お客様が求める以上にハイスペックなものを用意してコストが高騰し、2980円のビジネスモデルの中でサービスを実現できなければ、そもそも意味がありません。乾燥機をガス式から家庭用に変更したうえでテストを行い、無事リリースに至りました。

ランドリーのサービス案が一時的に迷走したのは、組織や事業としての目的や目標を共有しきれていなかったから。目的や目標が明確ら、おのずとそれに適さないやり方はNGになります。リーダーはそのすり合わせを行ったうえで、人に仕事を任せるべきです。

環境を整えたら、次は方法論の共有です。組織が大きくなるにつれて、あるチームが失敗したことをほかのチームに共有しようと思っても、情報が伝わりにくくなります。情報が伝わらない原因は、共有する側の伝え方に問題があったり、共有される側の受け止めが軽いなど様々です。いずれにしても、これではほかのチームも同じ失敗を繰り返してしまうでしょう。

逆に、あるチームが成功したのに、隣のチームはそのやり方を知らず壁にぶつかるケースも。やり方を完全にチーム任せにしていると、往々にしてそのようなことが起こります。再現性の高いノウハウに関しては子会社や部署を越えて共有して、任せる相手に一定の武器を与えておくのがいいでしょう。

仕事の任せ方は、相手によって変える必要があります。経験豊かで結果を出している相手なら、より大きな裁量を与えても大丈夫かもしれませんが、経験や実績が心細い相手なら、足りないところは補完したほうがいい。例えば商談なら自分が同行したり、財務や人事など専門領域に関わる仕事なら社内の専門家をつけてサポートしたいところです。

どんなタイプの人に任せるかは、それほど重要ではないと思っています。条件として熱意や責任感を挙げる人もいますが、仕事の成否は変数が多すぎて、一概に「〜な人だから結果が出る」という因果関係がわかりにくい。ビジネスは総合力です。一つの要素にとらわれより、総合力の帰結としての成果に注目したほうがいいと思います。

そのうえで、任せた相手に足りないものがあれば人をつけるなどして補完します。重要なのは組織やチームで成果を出すこと。誰に仕事を任せるにせよ、任せる仕組みが整っている会社が成長できるのです。