賃上げの動きが中小企業の淘汰・再編を加速
さらに酒井さんも、前出の永濱さんと同様に子育て支援金を捻出するための国民負担が増えることや、再生可能エネルギー普及で電気料金に上乗せする賦課金も増えることが消費マインドに悪影響となる懸念を示す。最近の株高についても「株を持っている人が高所得層や高齢者などに限られ、中間層に恩恵が及んでいない」とみている。
今春闘の賃上げの動きが広がっていくのか、注目されたのが中小企業だ。酒井さんは次のようにみている。
「中小企業にはいろいろあり、賃上げできるところも、できないところもあります。人手を確保しないといけない危機感から、無理をして賃上げしたところもあるのではないでしょうか。中小企業は二極化していき、倒産や廃業するところも出てくるかもしれません」
中小企業はコスト増分を価格に転嫁していけるのだろうか。酒井さんは、円安などによるコスト増の要因は取引先や顧客に対して説明しやすいが、賃上げ分の価格転嫁に中小企業は慎重とみている。コスト増を十分に価格転嫁できないと、省力化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)化などの必要な投資ができない。生産性を向上させて、賃上げもできる中小企業でないと、生き残りは難しくなる。
酒井さんは「継続的な賃上げには生産性の向上が欠かせませんが、その明確なビジョンが見えてきません」とも話す。
永濱さんも「中小企業の淘汰が進むと思う。賃上げできない中小企業は淘汰される」という。
歴史的な高い賃上げとなった今春闘。だが、消費回復までの好循環は期待できそうにない。むしろ、賃上げの動きが中小企業の淘汰・再編を加速していく恐れがある。高水準の賃上げの話ばかりがニュースが取り上げられるが、その裏には厳しい現実も見えてくる。