自分の承認欲求のために部下を犠牲にする
過大なノルマを押しつけられた部下が「自爆」営業に手を染めざるを得なくなり、それに限界がきて退職することが続いたら、退職に伴う保険の解約件数も相当な数にのぼるに違いない。
上司にとってはそれも想定内なのだろうかという疑問が湧くが、ある程度は想定しているのではないか。たとえ、後で解約される事態になっても、とにかく自分の部署が保険の契約をたくさん取り、稼いでいるように見せかけることができれば、それでよかったのだと思う。
その根底には、上司の強い承認欲求が潜んでいるように見える。何としても実績をあげて、上層部から認められ、昇進したいという執念のようなものさえ感じる。そのためには、それこそどんなことでもするという姿勢であり、部下に過大なノルマを押しつけ、それを達成できるようにあの手この手で誘導する。
パワハラリスクを回避する「口癖」
巧妙なのは、決して暴言を吐くわけではなく、「君の将来を思って」「君のため」といった言葉を頻用し、あくまでも部下のためを思っているかのようなふりをすることだ。これは、万一部下からパワハラで告発されるような事態になれば、昇進どころか、降格さらには解雇の憂き目に遭いかねないので、用心しているからだろう。
常に自己保身のための計算が働いているわけで、部下がノルマを達成できるように保険の積み増しを依頼する顧客のリストまで上司が自分で作成する“親切ぶり”を示すのも、同じ理由に違いない。
この上司のような自己保身の塊は、部下が「自爆」営業に手を染めようが、心身に不調をきたそうが、知ったことじゃないという姿勢になりがちである。これは、現在の地位から転がり落ちるのではないかという転落への恐怖、そして肩書や収入など、自分にとって大切なものを失うことへの不安、つまり喪失不安が強いせいかもしれない。