どんなに繁盛しても大切なのは地元客

地元客が毎日来ても飽きないお店になろうと次々に新しいメニューを開発した。

限定ラーメンを出すとそれぞれのメニューにファンがつき、それがレギュラーメニュー化していく流れになっていった。10人のお客さんが全員異なるメニューを注文するということもしばしば。これがファン作りの一つのきっかけになった。

筆者撮影
多賀野の店内にある券売機。定番の中華そばや、つけそば、多くのファンを獲得してきた限定ラーメンなどが並ぶ。

その後ラーメンブームが来て、遠方からのお客さんも激増し、50~60人の行列ができるようになった。最大3時間待ちという時期もあったという。メディアに出るたびにお客さんが増えていき、地元客がなかなか来られないお店になってきた。

「どれだけラーメンがうまくても地元に愛されないとダメだと思っていました」(正弘さん)

そんな悩みを抱えている中、新型コロナウイルスが日本を直撃し、コロナ禍でお店の前にたくさんの人が並んでいるのが問題になってきた。

「多賀野」はここですぐさま対策を講じることにした。行列や順番待ちを効率化できるiPadの受付管理アプリ「Airウェイト」を導入したのだ。コロナ後すぐに導入したため、予約制の先駆けとなり、全国紙が全紙取材に来たという。これで行列問題の解消とともに地元客も戻ってくるようになった。

ビールを飲みながら麺を打つのが毎日の楽しみ

8年前からは麺を自家製麺に切り替えた。

新潟出身の多賀子さんは「へぎそば」で育ち、とにかく麺にこだわりたかった。麺に布海苔を練り込み、他にはない麺を作り上げた。

「全部を自分たちで作ってみたいという思いは昔からあったので、自家製麺は一つの目標でした。手間はかかりますが、ラーメンを作るのは趣味だからOKなんです。『手間はタダよね』と二人で言い合っています」(多賀子さん)

夜営業をやめて昼だけにし、夜は麺作りに打ち込んでいる。正弘さんはビールを一杯飲みながら麺を打つのが毎日の楽しみだという。自家製麺を始めてからその麺の旨さが話題となり、今ではお客の半分が大盛を注文する。

「手作りならではの魅力を見せていきたいです。スープも時間や日によって味が変わっていきます。でもこれは美味しい中での表情の変化です。インスタントラーメンではないので、多少変わっていくのが魅力だし、飽きない秘訣ひけつかなと思います」(正弘さん)

「多賀野」は煮干しをだしパックにして追い煮干しをしたり、ブレンダーを使ってエスプーマ状のスープを作ったりと、通常のラーメン店とは違うやり方で独自の味を作り上げてきた。その製法は多くのお店に影響を与えている。修業せずに独学でオープンしたからこそできる究極の我流なのだ。