しかし法務省は「家主側が相続人と契約の解約手続きをとればいい」との考えで、いまだに抜本的な解決策を示していません。どこまでいっても、仲の良い家族がいることが大前提になっています。これだけ少子高齢化で家族関係が希薄になっている中、前提条件がとっくの昔に消え去っていることを国の偉い方々は気付いていないのでしょうか。
賃貸借契約が相続されず、賃借人の死亡と同時に終了する終身建物賃貸借契約もありますが、認可を受けた物件でのみ使うことが許され、一般的には利用することはできません。
家主だけが大きなリスクを背負ってしまう
また高齢賃借人に何かがあって福祉の人たちがレスキューしようとしても、本人が同意しなければ、誰にも権限はなく何もできません。認知症が始まって「ひとり暮らしは厳しい」と福祉側が判断しても、本人の意思が尊重されます。
たとえば認知症が始まって自分の糞便を泥団子のようにして投げまくっても、本人が拒否すれば施設に入所させることもできません。それが理由で他の入居者が退去してしまっても、国は家主側の損失を補塡もしてくれません。高齢者の家族に助けを求めない家主が悪いということでしょうか。
この先も、すべての高齢者が、持ち家を持てるわけではありません。そんな中で、民間の家主だけが大きなリスクを背負ってしまうのはあまりに酷だと言うほかないでしょう。
私も現在、賃貸物件に住んでいます。私が70歳以上の高齢者となる頃には賃貸借契約は相続されず、一代限りで終了することを自由に選択できる社会になっていてほしいと本気で願っています。そうでなければ離れて暮らす子どもに手続きをしてもらうしかないからです。子どもに迷惑をかけたくないと考える方は少なくないのではないでしょうか。国が早期に現場の悲痛な声を聞き、法改正してほしいと思います。