所有する土地の可能性を上手に引き出し、収益につなげるためのポイントはどこにあるのか。土地活用のコンサルタントや相続コーディネーターとして活躍する曽根恵子さんに聞いた。

事業であるからには戦略性が求められる

──近年の土地活用を取り巻く環境の変化についてどう見ていますか。

【曽根】先祖代々所有してきた土地をなんとか次の世代に引き継ぎたい。そう思っている方は多いですが、やはり現在は「税負担が厳しい」という声をよくお聞きします。ある方は首都圏で200坪ほどの駐車場を経営していて、年間の固定資産税が150万円超。収益のかなりの割合を占めるとおっしゃっていました。“持っていさえすれば価格が上がる”という土地神話が崩壊し、課税強化も進む今、いかに土地の収益性を引き出すかがますます重要になってきています。

──土地オーナーにはどのような視点が求められるでしょうか。

【曽根】賃貸などによる土地活用は、投資をしてリターンを得る“事業”にほかなりません。市況に目配りしながら、物件づくりや管理を行うことが大切になります。

例えば、土地の組み替えなども選択肢の一つです。ある方は首都圏のご自宅近くにすでに複数の賃貸住宅を保有していたため、別に持っていた更地の一部を売却して、神奈川のビルと東京の土地を購入しました。そして神奈川の物件は事務所として貸し出し、東京の土地には保育所を建設しています。それによって所有する土地の面積は減りましたが、収益性は大きく高まりました。

資産の組み替えに限らず、求められているのは要は戦略性です。企業が数値目標を立て、それを達成するためにさまざまな施策を実行するのと基本的には同じことです。

こまやかな配慮で周辺物件と差別化を

主体的に関わることでオーナーとしての意識も物件への愛着も高まります
曽根恵子(そね・けいこ)
公認 不動産コンサルティングマスター
相続コーディネート実務士
株式会社夢相続 代表取締役

出版社勤務後、1987年に不動産会社を設立。不動産コンサルタント、相続コーディネーターとして活躍。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などのメディア出演も多数。

──土地活用のための物件づくりにおいて大事にすべきことは何でしょうか。

【曽根】一つには、オーナーである自分自身がしっかりコミットすることです。賃貸物件は自分の土地に建てる自分の財産。自分が入居したり、利用したりするつもりで、事業者にも物怖じせず意見を言ってほしいですね。

例えば住宅なら、長く住んでもらうためには賃貸であっても分譲マンション並みの設備が求められます。また、収納を多く設けたり、部屋を使いやすいよう間仕切りをつけるといったこまやかな配慮は、必ず入居者に響きます。人任せにせず、最初に手をかけて周囲の物件と差別化を図ることで、20年、30年と資産価値を保つことができる。また、主体的にかかわることで物件への愛着も深まり、オーナーとしての意識も高まります。オーナーが自分の物件、つまりは商品をよく理解しているというのは、事業を行ううえで大きな強みになるでしょう。

──運営にあたっては、どのような姿勢が大事になりますか。

【曽根】日頃の運営は管理会社に任せるにしても、ご自身が“賃貸という事業”を行っているという意識は常に持ち続けてほしいと思います。時々の適切な投資なしに利益を上げ続けることはできない。それは、どんな事業にも共通することです。住宅であっても、そのほかの建物であっても、選ばれ続けるには適切なリフォームや思い切った修繕も必要になるでしょう。パートナーである不動産会社や管理会社の力を生かして円滑な運営を行いながら、要所要所でオーナーとして必要な決断をしていくことがポイントになります。

“社会的な価値”がますます重要に

──土地活用で成功する人とそうでない人にはどんな違いがありますか。

【曽根】なかに、何でも自分でやってしまおうとする方がいますが、先に行くにつれて苦しくなるケースが見受けられます。物件に愛着を持つことは大切ですが、一方で専門の事業者の力を上手に生かすことも同じくらい大事。リフォームまで自分で手がける方もいますが、それでは最低限のものになりがちです。賃貸管理や物件管理の差は将来的に収益の大きな差となって表れることになります。プロのノウハウや知恵を借りたほうが効率的です。賃貸事業とは別に本業を持っている場合、信頼できるパートナーを得られれば本業を続けながら賃料収入を確保できます。それを本業のリスクヘッジにも使えるのが賃貸経営のメリットです。

──長期の付き合いとなるパートナー選びはどう行うべきでしょうか。

【曽根】コンサルタントとしてお手伝いをするときには、(1)経営を続けていける体力と信用力があるか、(2)実績が多く信頼できるものか、(3)メンテナンス体制が明確で安心できるか、の3点を見ます。そのうえで物件コンセプトや対応の良し悪しなどの観点を比較検討して選ぶようアドバイスします。

例えば複数の事業者から見積もりを取るときも、こちら側からある程度間取りや仕様を指定すれば比較もしやすい。そうした工夫も必要でしょう。

──近年は土地活用の手法やサポートサービスが多様化しています。

【曽根】アパートやマンションはもちろん、オフィスや店舗、宿泊施設、高齢者施設、保育園など、選択肢は豊富。運営支援の体制も整備されています。その中でエリアの特性に合い、収益が上げられるものを選ぶことが大切です。

一方で、“社会的な価値”という視点も重要です。そもそも社会に何らかの価値を提供しない事業は存続しません。それが収益の源になるわけです。競争が激しくなっている賃貸事業において、社会貢献への意識がより求められるようになっていると思います。

私が20年前に関わらせてもらった32世帯と5店舗からなる店舗併用賃貸は、現在でもまだ満室が続き、そこでは日々ドラマが生まれています。

土地は寝かせているだけでは、社会性も価値も生まれません。社会に貢献し、利用者に喜んでもらいながら、事業収入を得て、次の世代に資産を引き継いでいく。そんな夢がある土地活用に取り組んでほしいと思います。