こうした人にとってもっとも幸せなのは、自分自身が納得できる選択肢を自分自身で選び、それによって望む結果が得られたときです。
しかし、彼らは病気になり、一人でトイレに行くことすらままならなくなると、大きな絶望を味わいます。
自分の力では、自分の望みが何一つ叶わなくなるからです。
そして必ず、私たちに向かって「早く死なせてほしい」と口にします。
「死んでしまいたい」という人が変わる瞬間
そんなとき、私たちは、患者さんの気持ちを聴いたうえで、「この先、何があれば安心ですか?」という問いかけを行います。
はじめは自暴自棄に陥っていた患者さんでも、この問いかけを丁寧に繰り返していくうちに、少しずつ自分の気持ちを整理していきます。
やがて、「会社の経営を、Aさんに任せたい」「自宅の庭の手入れを、Bさんに頼みたい」、あるいは「自分の排せつ物の世話を、病院のスタッフのみなさんにお願いしたい」といったことをぽつり、ぽつりと話すようになります。
本当は自分でやりたいけれど、どうしてもできない。その事実に向き合い、認めたとき、今まで「誰にも迷惑をかけたくない」「迷惑をかけるくらいなら死んでしまいたい」と思っていた彼らが、初めて自分ではない誰かにゆだねる勇気を持ちます。
そして、ゆだねられる誰かが見つかったとき、表情が一変し、それまで見たことがないような、穏やかなほほえみを浮かべるようになるのです。
誰になら、自分が大切にしていることをゆだねられるか
この段階に至るまでには、かなりの時間がかかりますし、患者さんの心の中で、さまざまな葛藤があると思います。
しかし、人は解決できない苦しみを抱えていても、自分を支えてくれている存在、自分が大切にしているものをゆだねられる存在に気づくことで、自分を肯定し受け入れ、心の穏やかさや前向きに生きる力を得ることができるのです。
今、苦しみを抱え、自分を否定してしまっている人は、「なぜ自分は、こんな苦しみを抱えながらも生きてこられたのか」と、ご自身に問いかけてみてください。
あなたを支えてくれている存在に気づくことができるかもしれません。
もし「そんな存在はいない」と感じたなら、「自分のいのちの終わりが近づいているとしたら、誰に自分の大切なものをゆだねられるか」を考えてみてください。
その人が、これからあなたが生きていくうえでの支えになるかもしれません。
支えがいなかったとしても、誰かの支えになれる
これまで私が出会った方の中には、重い病気を抱え、一時は「自分には、支えてくれた存在などいない」と絶望や孤独を感じたものの、自分自身が誰かの支えになることで幸せを感じ、自分を肯定し、前向きに生きる力を得た人もいます。
現在、私が講師を務める「エンドオブライフ・ケア援助者養成講座」を受講されたMさんは、40代のときに乳がんと診断され、片方の乳房を全摘することになりました。
独身だったMさんは大変なショックを受け、不安や後悔に襲われました。
乳房が片方しかなくても、自分を愛してくれる人はいるのだろうか。
年齢を考えても、化学療法などの後遺症を考えても、出産は無理だろうか。