後悔のない人生を送るにはどうすればいいのか。ホスピス医の小澤竹俊さんは「富や名誉、お金をたくさん手に入れても、死の直前に後悔する人はたくさんいる。本当の幸せは、弱く不完全な自分を認めることでしか手に入らないのだろう」という――。

※本稿は、小澤竹俊『自分を否定しない習慣』(アスコム)の一部を再編集したものです。

台所に座っている絶望的な女性
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「自分を否定する気持ち」を手放す方法

解決できない苦しみを抱え、自分を否定する気持ちにとらわれているとき、その気持ちを手放すためにまず必要なのは、弱い自分、何もできない自分を認め、そんな自分を支えてくれている存在に気づくことです。

自分を支えてくれている存在とは、自分のことを「Good Enough」(それで良い)と言ってくれる存在のことである、といってもいいかもしれません。

支えてくれている存在に気づくことができて初めて、人は自分がかけがえのない存在であることを知り、自分を肯定し、心の穏やかさを得られるようになります。

そして人は、自分が解決できない苦しみを抱えていること、何もできない弱い人間であることを認めることができて初めて、支えてくれている存在に気づくことができるのです。

末期がんになった40代女性の苦悩

以前、40代の女性の患者さんに関わらせていただいたことがあります。

末期のがんであったその女性は、最初のうち、常に「結婚し、子どもが生まれ、これからどんどん幸せになろうと思っていたのに、なぜ私だけが病気にならなければいけないのか」「私が、どんな悪いことをしたのか」という思いに、非常に苦しんでいました。

私たちは、反復と沈黙を繰り返し、そうした彼女の言葉を否定せず、徹底的に聴きました。

そして、あるタイミングで、「初めて病気をしたときに、どんなことを感じましたか」「どんなつらいこと、苦しいことがありましたか」と尋ねたのです。

彼女からは「抗がん剤で副作用がひどく、口内炎で食事がとれなかったり、体がだるく、手足がしびれて家事ができなかったことがつらかったです」という答えが返ってきました。

そこで私が、「苦しかったときに、あなたが頑張れたのはなぜですか」と尋ねると、彼女は「家族がいたからです」と答えました。

支えてくれている存在に気づいたとき、人は変わり始める

彼女が変わり始めたのは、その瞬間からでした。

抗がん剤の副作用の苦しみを乗り越えることができたのは、夫や子どもがいてくれたからであり、今までの人生も、家族や周りの人たちに支えられていたからこそ、自分は生きてこられたのだということに気づいたのです。

「どんなお子さんですか?」という私の問いに「どんなに私がつらくても応援してくれる、とてもかわいくて優しい子どもたちなんです」と答える彼女の顔は、それまで見たことがないくらい、明るく輝いていました。