107歳が語る「働く理由」

以来70年、シツイさんは107歳になった現在でも、月に4、5人の客の髪を切り続けている。

「なんで働き続けるのかって? それは、人間、働くものだからね。生きてる以上、食べなくてはならないし、買わなくてはならないから、死に物狂いで働いてきたんです。少し前までは、床屋をしない人もここに集まってきて、持ってきたお菓子を食べたりお茶を飲んだりしてね、『谷川サロン』なんて呼ばれていたんですよ。ここに人がいないことはなかったですね」

現在の客の中には、赤ん坊の頃からシツイさんに髪を切ってもらっていた人もいるというから、107歳という年齢は、やはりけた外れの長寿なのだと再認識させられる。しかも、シツイさんは背中の曲がりもなければ、腰痛も膝の痛みもなく、内臓疾患もないという。そして、声は力強く、頭も冴えている。

撮影=向井渉
毎日運動を続けるシツイさん。片足立ちでサッとここまで足があがることに取材スタッフは驚いた

スタッフ一同、度肝を抜かれた「シツイ流・筋トレ」の内容

「長寿の秘訣ひけつですか? 70歳から始めた自己流体操と、前の体育館の駐車場を毎朝歩くことですかね。(東京オリンピックの)聖火ランナーをやったときには、毎朝、1000歩歩いていましたよ」

聖火ランナーをしたときのトーチは今も大事にしている(撮影=向井渉)

自己流体操のメニューは、柔軟体操、ツボ押しから筋トレまで30種類ほどあり、シツイさんはそれらを組み合わせながら、毎日気が済むまで体のメンテナンスをする。体操が終わるとウォーキングに出かけるが、毎日やらないと気が済まない。

「体を動かさないと体が硬くなるからね。今日はちょっと辛いから歩くのやめようかなと思っても、やっぱりダメだ! と思って歩きに行くんです」

圧巻はベッドに腰をかけて行う筋トレだ。片足に1.5キロずつ、合計3キロの鉛をつけて、脚が床と水平になるまで上げては下ろす。その運動をなんと500回から1000回もやるというのである。これには取材スタッフ一同、度肝を抜かれてしまった。

撮影=向井渉
シツイさんがつけている足用の重り。ずっしりと1.5キロある