「雪の中を自由に滑り回れるようになりたい」
考えてみたら、スキーをはじめてかれこれ90年近くになりますが、大病を患い、8カ月の入院を余儀なくされた87歳の冬以外は一度もスキーをしなかった冬はありません。年がら年中、雪があればスキーで滑るものだと信じて疑いませんでした。
スキーの楽しさは言葉では表せないものがあります。白い雪が降り積もったこの世のものとは思えない景色に、キンと冷えた空気と粉雪の匂い、自分の体ひとつで滑るスピード感……。一度体験したらもう後には戻れない魅力に満ちています。
その中に、「上達する」という喜びがあります。
ぼくは若いころからスキースクールを主宰してきました。スキーを仕事にするにはスキースクールが早道です。毎日欠かさずスキーをして、それでお金がもらえる。それはスキーヤーにとって夢のような仕事です。
自分のスキー学校には「スノードルフィンスキースクール」と名づけました。
鳥が空で自由に飛ぶように、イルカが海で自由に泳ぐように、雪の中を自由に滑り回れるようになりたい、という思いが込められています。
日本のスキー学校は、どちらかといえば頭でっかちなところがあって、スキーの技術を難しくとらえがちです。
でも、何も難しく考える必要はありません。はじめてスキーをはいた人が、次の日からはみるみる上達していく姿をたくさん目にしてきました。とくに子どもたちの上達ぶりには目を見張らされます。
頭で考える大人と違って、子どもたちは楽しいことが一番ですからね。難しいことを教えなくても、雪の斜面を自由に滑りまくるだけで自然とスキーが上達します。
70代になってからターンテクニックを研究していた父
ぼくは冬になると毎日のようにスキーをしてきましたが、上達したかったから、いつもどんなときでも、ひとつのターンでもおろそかにしませんでした。
上達すればするほどスキーは楽しくなり、その先にはまた新しい世界が開けます。そうやって何十年もスキーを続けてきたわけです。
いまでも忘れられないのは、70代になってからの父が、毎晩のようにステンマルク選手のビデオを観て、ターンテクニックを研究していた姿です。
ステンマルクというのは、アルペンスキー競技で圧倒的な実績を残した世界的なスキー選手です。
父は、そのステンマルクのスキー技術を解説したビデオを購入し、それこそ毎晩擦り切れるほど観て、自分のスキー上達に役立てようと研究していたのです。
たとえば上体の動きや、ターン弧の描き方など、彼の高度なスキーテクニックを少しでも理解しようとしていました。
繰り返しますが「70代になってから」です。
スキーが上達することは、雪の上で自由になることです。そしてそれは年齢を問わず、スキーヤーにとって最高の喜びなのではないでしょうか。
そして、スキーに限らず、そして年齢に限らず、仕事でも趣味でもなんでも、何かが昨日よりも今日上手になる――。
いかがですか、若いころに夢中になっていたこと、やりたかったことを、またはじめてみませんか。その達成感と喜びは、元気と若々しさ、自信と活力をあなたに与えてくれるはずです。