10月7日、栃木県那須町の朝日岳の登山道付近で60~70歳代の男女4人の遺体が見つかった。ノンフィクションライターの羽根田治さんは「実は、ほぼ毎年のように秋の登山で遭難者が出ている。絶好の行楽シーズンだが、決して油断してはいけない」という――。
朝日岳(写真=Uraomote yamaneko/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)
朝日岳(写真=Uraomote yamaneko/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons

朝日岳での男女4人遭難死はなぜ起こったのか

10月6日、那須連峰の朝日岳(1896メートル)で、60代の男性2人パーティのうちひとりが悪天候により行動不能に陥るという事態が発生した。

2人は5日に入山し、山中にある温泉宿に宿泊。翌日、朝日岳近くの稜線りょうせん上に差し掛かったところでひとりが低体温症を発症し、動けなくなってしまった。

この日は午前11時ごろから天候が急変。強風が吹き荒れ、雨や風で飛ばされた小石が舞う中、岩につかまりながら四つん這いになって行動していたという。

仲間の男性は助けを求めるため、携帯電話の電波が届く場所を探しながら移動した。その途中で男女3人パーティ(60~70代)が倒れているのに遭遇。声をかけたが返事はなく、そのまま下山を続けて救助を要請した。この3人パーティについては、別の登山者が先に遭遇しており、警察に一報を入れていた。

計4人の遭難者は、翌朝になって相次いで発見された。いずれも現場で死亡が確認された。死因は全員が低体温症だった。

秋山登山の恐ろしさ

那須連峰は標高約2000メートルの山々が連なる中級山岳だが、地形的に北西の風が吹き抜けやすく、とくに冬場は“強風の山”としてもよく知られている。

事故が起きた6日は冬型の気圧配置となっていて、現場付近では風速20メートル以上の非常に強い風が吹く状況になっていたとみられる。また、現場に近い「那須ロープウェイ」によると、この日の最高気温は6.5度、最低気温は4.5度だったという。

一般的に10~11月は秋真っ盛りというイメージがあり、標高の高い山でも移動性高気圧に覆われているときは絶好の登山日和となる。平地では爽やかで過ごしやすい陽気だが、標高の高い山に上がれば気温はぐんと下がり、朝晩は氷点下まで冷え込むことも珍しくない。

平地と同じ感覚で山を訪れると、予想外の寒さに登山を楽しむどころではなくなってしまう。ましてひとたび天気が崩れれば、山は厳冬期なみの大荒れの状況となる。そんななかで起きたのが今回の事故だった。

標高の高い秋の山では秋と冬が瞬時に入れ替わり、登山には周到な準備と適切な判断が要求される。それを誤ってしまったことによる大きな遭難事故は過去に何度も起きている。

その典型的な例として、30年以上たった今も語り継がれているのが、北アルプス・立山で起きた中高年登山者の大量遭難事故である。