2つの事故の共通点

2つの事故には共通していることがある。立山での事故は、大陸から強い高気圧が張り出すとともに、台風が日本の東海上に接近したことで一時的に冬型の気圧配置になったことによるものだった。

白馬岳での事故も、台風から変わった温帯低気圧が急速に発達しながら太平洋岸をゆっくり北上する一方、大陸には高気圧が南下してきて、やはり西高東低の気圧配置となっていた。

つまり、どちらも発達した低気圧の通過後に冬型の気圧配置となり、強い寒気が流れ込んできて、北日本や日本海側の高い山で猛吹雪になったというわけである。

この時期、平地ではいくら天気が悪くても真冬ほどの寒さになることはなく、標高の高い山で天気が崩れたときにどんな状況になるのか、登山の初心者にはイメージが湧きにくい。 

そういう意味では、夏山しか経験したことのない初心者にはちょっとハードルが高そうだ。そこそこ経験のある登山者でも、真冬並みの悪天候になることは理解しているかもしれないが、それが想像を超えた荒れ方になると、おそらく対処はできまい。

装備不足からの低体温症

この2つのケースのように、激しい天候の急変はなくとも、悪天候や防寒対策の不備が原因と思われる遭難事故も毎年のように起きており、ときに死者も出ている。

2019年10月26日、福島県の野地温泉から安達太良山(1728メートル)に入山した高齢の夫婦が、低体温症により死亡するという事故が起きた。2人は宿泊を予定していた山小屋にたどり着かず、翌朝、山頂付近の登山道で倒れているのが見つかった。現場の状況から、風雨に打たれて体温が奪われ、ビバーク中に力尽きたものと見られている。

2021年10月23日、北アルプスの白馬乗鞍岳(2469メートル)では、50代の単独行男性から23日未明に「寒さで身動きが取れない」との救助要請が警察に入った。出動した救助隊員は山頂から約500メートル下の斜面で倒れている男性を発見し、死亡を確認した。現場周辺には30センチほどの積雪があったという。

2022年10月5日には、北海道の美瑛岳を下山中の男女3人パーティから「女性メンバーが低体温症で歩けなくなった。ヘリで救助してほしい」という救助要請が警察に入った。歩行不能の70代女性はヘリで救助され、ほかの2人は自力で下山した。

今年も同様の事故は起きている。10月5日、北アルプスの南岳(3033メートル)で2人パーティのうち70代女性が低体温症で行動不能となり、救助隊員によって山小屋に担ぎ込まれた。この日の北アルプスはほぼ全域で吹雪に見舞われていたという。