データは嘘をつく、都合良く解釈もできる

ここまでは、国家資格を持つ医師が在籍する医療機関の行う検査である。一方、民間事業者による検査の広告には、我々の興味を惹くような文字が躍っている。

いわく、ある遺伝子検査サービスでは、病気になるリスクだけではなく、体質や性格の傾向、先祖のルーツなどが分かるという。

遺伝子診療科の粟野宏之教授は、こうした検査広告では“精度管理”についての情報の公開が十分でなく、曖昧だと指摘する。

病院で行う検体検査は、医療法等に則って精度管理がなされている。しかし「医療」ではない民間の検査の場合は、何の規制もない。検査基準そのものを企業が決めることができる。

「例えばある検査会社の広告に、『800人を対象にした試験による研究報告がある』というようなことが書いてあったとします。本当に800人に検査したかどうかは、公表されていない場合はその文言を信頼するしかない。

写真=中村治

そして、調べた遺伝子の変化が本当にその体質に関わるものかを判定するには、10万人、100万人くらいの大きな集団でやらなければならない。また、年齢や性別、地域や人種といった条件を考慮する必要もあります」

尿の匂いに対する線虫という生物の反応で、がんの有無が診断できるという「線虫検査」の広告の中には、感度や特異度が90%前後と書かれているものがある。一見するとかなり精度の高い検査に思える。しかし、前出の図表1にあるように、有病率が分からなければ陽性的中率が判断できない。

極端なことを言えば、感度99%、特異度90%の検査を受けて陽性の結果だったとしても、有病率が0.1%だとすると、その人にがんがある確率は10%程度にすぎないという結論になる。

「データというのは、取り方によっては嘘をつきます。都合のいいように解釈することも可能です。線虫検査に関しては、生き物を使って精度管理ができるのかという疑問があります。精度の高い検査というのは、いつ・どこで・誰がやっても同じ結果が出なければいけない。生き物を使って果たしてそれが可能なのか」

日本の民間の遺伝子検査は占い

筆者が手に入れた線虫検査によると、〈15種類のがん〉を検知できると書いてあった。

「陽性になった場合、15種類のうちどのがんなのかを一つひとつ調べないといけない。そもそも不確かな検査を検証するために、お金も時間もかかってしまいますよね」

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 15杯目』

良心的な医療機関であれば、検査で不都合な結果が分かる場合があること、その精度についても十分な説明があるはずだ。カウンセリングの必要も出てくるだろう。

「僕は日本の民間の遺伝子検査は占いくらいに考えています。ビジネスなので商売が絡んでいますし、それを分かった上で楽しむ分にはいいかなと。調べている遺伝子は体質に関わるものなので、仮に変化があったとしても実際に病気になるかどうかはそれだけで決まるものではありません。繰り返しになりますが、検査精度も様々です」

検査を受ける人の中には、自身の健康に対する不安を抱えているのに求める情報が得られず、すがるような思いで検査をする人もいることだろう。そこには忙しい医療者が充分に患者に寄り添うことができず、その隙間にビジネス検査が入り込むという構図も見えてくる。

しかし本当に自身の健康に役立つ検査を受けたいのであれば、その内容と信頼度をしっかりと理解した上で、対象を絞って受ける。医療リテラシーを高めて、自らを守るしかないのだ。

(取材・文=西村隆平(カニジル編集部)、写真=中村治)
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