想像以上に医療分野はグレーゾーンが大きい

偽陽性というのは、新型コロナウイルスのPCR検査で広く知られることになった、その疾患にかかっていない人でも陽性を示すことをいう。

ここで留意しなければならないのは、脳ドックは保険適用されていないということだ。

保険適用とは、公的な審査・承認を経て、健康保険からの給付の対象として認められることを意味する。十分なエビデンス(科学的証拠)があり、国民に対して税金で補助するに値する医療行為である。

ビジネス面では、保険適用外の医療行為は「自由診療」であり、施設ごとに値段を付けることができる。MRIを所有する病院にとって、脳ドックは大きな収入源にもなりうる。そのため、社員の福利厚生の一環として企業の健康診断の中に入っているという面がある。

一般的に思われている以上に、医療分野の“グレーゾーン”――判断が分かれる領域は大きい。保険適用外の医療行為が、エビデンスを積み重ねてのちに保険適用となることもある。あくまでも“現時点”での一つの目安である。

100歳まで健康に過ごすために、がんは早めに見つける

国民の約半分が罹患するといわれている、がんを例にとって説明する。がん検診には2種類がある。

一つは市町村などが公共的なサービスとして行う「対策型検診」。

これは厚生労働省が認める、対象集団全体の死亡率を下げるというエビデンスの揃った検査であり、公的資金により無料もしくは可能な限り経済的な負担軽減により行われる。もう一つの「任意型検診」は自身の死亡リスクを下げるため、自費で受ける。

前者の対策型検診は定期的に受ける必要があると、消化器内科の池淵雄一郎助教は強調する。

「定期的に受けることで、がんになったとしてもそのがんで死亡する可能性を下げることができるんです」

胃がんや大腸がんは、早期発見であれば内視鏡で切除する。がんが進行していたとしても、ロボット支援手術や腹腔鏡手術という、比較的体への負担が少ない外科治療が可能だ。しかし長期間検診を受けていないと、治療できない状態にまで進行したがんが見つかることがある。

「まれに進行が非常に早いがんというのもありますが、普通の胃がんや大腸がんは、毎年検診を受けていれば手遅れになることはあまり無い。100歳まで健康に過ごすために、がんは早めに見つけることです」

写真=中村治