従来の技術では大量の希少金属が必要だった
ニオブもチタンも安定的供給に問題はないようだが、川勝知事の脅しもあってか、JR東海は、従来のニオブチタン合金製の超電導磁石から「脱」却を図るために技術革新に取り組んできた。
昨年、国のリニア技術評価委員会が認めたのは、JR東海が従来の「低温超電導」から「高温超電導磁石」の実用化にメドをつけたことである。
「低温超電導磁石」や「高温超電導磁石」と言っても、一般的には全く知られていないから、ほとんどの人の関心を呼ばなかった。
「超電導現象」とは、金属や化合物を極低温に冷却したときに電気抵抗がゼロになる現象である。
オランダの物理学者カマリン・オンネスが、1911年に絶対零度のマイナス273度よりも4度だけ高い液体ヘリウムの沸点マイナス269度で超電導現象になることを発見した。
その超電導現象を利用すれば、磁石のコイルの電気抵抗がゼロになるから、強い磁界を発生でき、永久磁石のような働きをさせられる。
JR東海は、この電磁石の強い力で、列車を浮上させて、時速約500キロというリニアを開発することに成功した。
ただリニアの運行には、磁石のコイルを冷却し続け、マイナス269度の極低温状態で超電導を維持しなければならない。
この極低温状態の電導磁石を「低温超電導磁石」と呼んでいる。現在、その超電導技術はほぼ完成されている。
ただ極低温状態を維持するのは簡単ではない。
「低温超電導磁石」では、2層構造の冷却槽を用意し、コイルの周囲を真空として、マイナス269度の液体ヘリウムで冷却し、その上部に設けた液体ヘリウムとマイナス196度の液体窒素の冷凍機で冷却しなければならない。
つまり、その構造は非常に複雑なのだ(図表1)。
「液体ヘリウム確保が最大の課題」
また何よりも、調達が危惧されるのは希少金属よりもヘリウムである。
天然ガスにわずかに含まれるヘリウムは近年、世界全体で供給不足が起きて、不安定になっている。
ヘリウムの資源は限られ、非常に高価だ。JR東海は消費するヘリウム100%を輸入に頼らざるを得ない。
マイナス269度という液体ヘリウムの代替となる冷媒は他にない。
もし、ヘリウムの供給が止まれば、超電導リニアは動かなくなる。だから、一部科学者は、ヘリウムの確保が技術的な最大の課題と指摘する。
このため、JR東海は液体ヘリウムのマイナス269度より、高温で超電導になる「高温超電導磁石」の研究を続けてきた。