「世界で最も豊かな国」の復活を掲げる

ロイター通信によると、新大統領の勝利の背景には、国の経済衰退を止められなかった前政権への深い不満がある。前政権下でペソの実質的な価値は急落した。

フィナンシャル・タイムズ紙によると、アルゼンチン経済は2020年に9回目のデフォルト(債務不履行)に陥ったことで、国際資本市場からの借り入れが不可能となった。政府は赤字を賄うため、紙幣を印刷せざるを得ない事態に陥る。結果、通貨供給量が爆発的に増加し、ペソの価値の暴落を招いた。物価高騰に拍車をかける結果となった。

米政治専門紙のヒルは、アルゼンチンにおけるいわゆる小さな政府の必要性を強調している。

大統領選の勝利演説でミレイ氏は、「世界で最も豊かな国であったアルゼンチンは、いまや世界で第130位である。国民の半分は貧しく、残りの10%は貧困にあえいでいる」と、国家の凋落を強調。続けて、「貧困化を招いているこの(政界の)カーストモデルを止めようではないか。今日、われわれはリバタリアンモデルに舵を切り、世界的な大国に戻ろうとしているのだ」と述べ、思い切った経済政策の転換が必要だと訴えた。

米ヒル紙はこれに同調し、「アルゼンチンでは、限られた政府が切実に、切実に必要とされている」と指摘。1900年には世界で最も繁栄した国のひとつに数えられていたが、1940年代から準ファシズム的な政治スタイル路線に傾倒し、政府が経済へ過干渉したことで失速したと振り返る。

インフレ率185%の現在、国民は必需品の購入を控えて物価変動に耐えている。同紙によると、アルゼンチン人口4500万人のうち、民間部門に雇用されているのはわずか600万人のみという歪んだ経済構造になっている。

過激な言動に注目が集まり、若者層の支持を取り込んだ(写真=Casa Rosada/CC-BY-2.5-AR/Wikimedia Commons

貧困と政治不信が生んだ「南米のトランプ」

ミレイ氏の攻めの姿勢と「政治カースト解体」の主張は、現状に変化を求める有権者たちの共感を呼んでいる。アルゼンチンを世界的な大国として復活させるビジョンを明確に示し、経済的苦難に耐え忍ぶ国民から支持を取り付けた。アルゼンチンの部厚い若者層にSNSが浸透し、彼らがミレイ氏に未来を託したという点も見逃せない。

その一方、最近では、より穏健な言動が目立つようになった。AFP通信は、ミレイ氏が選挙戦以降に主張をトーンダウンさせ、インフレの「破壊」やドル化といった目標の達成には時間がかかることを認めていると報じた。また、野党勢力が多数派を占める国会の状況を鑑み、対抗勢力を閣僚に登用している。無鉄砲な選挙戦のイメージから一転、より堅実な施策で脇を固める。