自民党の「パー券裏金問題」に東京地検特捜部が切り込んだ
自民党の最大派閥・安倍派が存亡の危機を迎えている。
政治資金パーティー券の売り上げノルマを超えた分を政治資金収支報告書に記載せず「裏金」として所属議員にキックバックする不正が長年続いていたことが、東京地検特捜部の捜査で発覚した。
安倍晋三元首相が急逝した後の集団指導体制を主導してきた「5人衆」(松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、萩生田光一政調会長、高木毅国会対策委員長、世耕弘成参院幹事長)も裏金を受け取っていたことが明らかになり、世論の批判は沸騰。岸田文雄首相は5人衆全員を更迭する方針を固め、内閣改造・党役員人事に踏み切ると、時事通信や朝日、読売などの報道機関が報じた。
安倍派を標的にした検察当局の裏金捜査は、来年秋の自民党総裁選をにらんで麻生派(第2派閥)・茂木派(第3派閥)・岸田派(第4派閥)の主流3派を後押しする「国策捜査」の色合いが濃いと私は分析している。
今後の捜査は、自民党内の権力闘争と密接に絡みながら進展していくだろう。そのなかで誰が脱落し、誰が浮かび上がるのか。政局を大胆に展望してみよう。
「ポスト岸田」をめぐる権力闘争である
岸田内閣の支持率は2割台まで落ち込み、解散・総選挙に踏み切れない状況に陥っている。
非主流派のドンである菅義偉前首相(無派閥)は来年秋の自民党総裁選に向けて二階俊博元幹事長(第5派閥・二階派)と連携。マスコミ世論調査で「次の首相」トップに返り咲いた石破茂元幹事長(無派閥)を「選挙の顔」として擁立し、麻生氏ら主流派に対抗する準備を進めている。
麻生氏は岸田首相では総裁選に勝てないとして見切り、来年春の予算成立と国賓待遇での首相訪米を花道に岸田内閣を総辞職させ、緊急の総裁選に茂木敏充幹事長を擁立して勝利し、主流3派体制を維持したい考えだ。
岸田首相が「増税メガネ」のあだ名を嫌って所得税の定額減税を表明したことに財務省が激しく反発して岸田政権を見限ったことも、「財務省の用心棒」的存在である麻生氏の判断を後押ししたとみられる。
総裁任期満了に伴う来年秋の総裁選は、国会議員だけでなく、一般党員も投票権を持ち、国民人気の高い石破氏を担ぐ菅氏に有利となる。これに対し、総裁が任期途中に辞任した場合の緊急の総裁選は、党員投票は行わず、国会議員と都道府県連代表の投票だけで決する仕組みだ。派閥の多数派工作が勝敗を左右し、派閥会長である麻生氏や茂木氏に有利といえる。
それでも主流3派だけでは過半数には届かない。総裁選の鍵を握るのは、最大派閥・安倍派の動向だ。麻生氏ら主流派と、菅氏ら非主流派のどちらが安倍派の大勢を引き込めるかが、ポスト岸田レースを決するといっていい。