自民党主流派の死角…無派閥の「首相候補」の存在感

2001年の小泉純一郎政権誕生で幕を開けた清和会(現在の安倍派)支配はいよいよ終焉しゅうえんする。入れ替わるように、清和会に駆逐され弱体化した経世会(平成研究会・現在の茂木派)と宏池会(現在の岸田派)、そして宏池会から枝分かれした麻生派の時代が復活する――。そんな自民党派閥史の転換期を迎えているのかもしれない。

だが、麻生氏ら主流派には死角がある。菅氏が総裁選に担ぐ石破氏も、第三極の立場から出馬を目指す高市早苗経済安保担当相も、無派閥であることだ。

第2次岸田文雄再改造内閣で経済安全保障担当相に留任した高市氏
第2次岸田文雄再改造内閣で経済安全保障担当相に留任した高市氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

安倍派の裏金事件で派閥政治への批判が高まれば、主流3派に担がれた派閥会長の茂木氏に対する逆風が吹き荒れ、無派閥の石破氏や高市氏に追い風が吹く動乱の展開も否定できない。

石破氏は安倍政権に干され、総裁選に負け続け、石破派も解体に追い込まれたことが幸いするかもしれない。安倍派など5派閥の政治資金問題が発覚した後、メディア出演を重ねて総裁選出馬への意欲を隠さず、「政治とカネ」を争点に据える構えをみせている。

自らの政治資金は透明に管理しており、鳥取県知事などを歴任した父親から政治資金を受け継がなかったことも強調。安倍氏の妻昭恵氏が政治資金2億円超を相続税を免れるかたちで受け継いだこととの違いをアピールした。自民党にはびこる「派閥・世襲・裏金」の闇を一掃することを争点に掲げ、麻生氏ら主流3派が担ぐ茂木氏に対抗する戦略だ。

無派閥・非世襲の高市早苗氏が「台風の目」になる

しかし、石破氏には決定的な弱点がある。党内基盤が弱く、菅氏や二階氏に担がれなければ総裁選に出馬できないことだ。

菅氏は安倍政権中枢に陣取り、東京五輪誘致をめぐる汚職事件などでも批判を浴びた。二階派は今回の裏金疑惑でも捜査対象に浮上している。しかも菅氏と連携する河野太郎デジタル担当相や小泉進次郎元環境相は世襲政治家の象徴だ。石破氏が派閥・世襲・裏金をどんなに批判したところで、旧態依然たる自民党文化にどっぷり浸かっている勢力に支えられている矛盾は隠しようがない。

その点、台風の目に浮上する可能性があるのは、無派閥で非世襲の高市氏だ。

高市氏は前回総裁選で安倍氏に担ぎ出され、安倍支持層の熱狂的支持を集めた。5人衆は安倍氏が無派閥の高市氏を擁立したことに不満を募らせた。安倍氏が健在な時は表面化しなかったが、安倍氏が急逝した後は高市氏を露骨に遠ざけた。高市氏は自民党内で孤立感を深めたのである。

とはいえ、右派言論界やインターネットの右派インフルエンサーら安倍支持層の支持は根強く、世論調査の「次の首相」でも石破氏や河野氏、小泉氏に続く順位を維持している。茂木氏や岸田派ナンバー2の林芳正前外相よりも国民人気ははるかに高い。