3番手からの猛追で大統領になった「南米のトランプ」
11月に行われたアルゼンチンの大統領選(決選投票)は、急進右派・自由至上主義者の新人候補であるハビエル・ミレイ下院議員が当選する波乱の結果となった。批判的な人々からは「エル・ロコ(狂人)」とも呼ばれる独特な思想の持ち主だ。
選挙戦では、自国通貨ペソを廃止し米ドルに切り替えると主張。12月には前年比210%(前月比では25%)に達するような物価高騰を抑制すべく中央銀行を閉鎖すると訴えるなど、急進的な改革案を打ち出し物議を醸した。
一方で「改革」への期待は着実に高まっていった。当初は3番手とみられていたが、8月の予備選で首位になると一躍有力候補に浮上。乱れた頭髪でチェーンソーを振り回すパフォーマンスも注目され、分厚い若者層からの支持を集めた。
かつて「最も栄えた国」とさえ呼ばれたアルゼンチンは、いまや人口の40%が貧困に陥っており、国土全体を経済不安の暗闇が覆う。状況の一変を目論むミレイ氏の“奇策”は尽きない。福祉給付の削減に留まらず、文化?・女性・健康・教育など各省庁の閉鎖、公共事業の「ゼロ」への削減などを掲げ、アルゼンチンを徹底した緊縮財政へと導きたい意向だ。
論争の火種となっている政策は、経済分野に留まらない。ミレイ氏の提言は、銃規制の緩和、中絶の禁止、臓器売買の許可などにも及ぶ。改革への期待を一手に背負う新大統領だが、極端な政策がかつてのアメリカ指導者を想起させることから、「南米のトランプ」だとして危険視する声もある。なぜ国民はそんなミレイ氏を支持したのだろうか。