世界のリーダー不在の状況を「Gゼロ」と形容し、そのリスクを指摘してきた国際政治学者のイアン・ブレマー氏。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は世界、そして日本にどのような影響をもたらすのか。ニューヨーク在住のジャーナリスト肥田美佐子がリモートで独占インタビューを行った。

コロナパンデミックは生涯で最大の危機だ

Q:ユーラシア・グループは2020年3月19日、コロナ危機を受け、20年の年初に発表した「世界10大リスク」をアップデートしました。同リポートの見直しは初めてのことだそうですね。

A:今回のパンデミックは、私たちの生涯で最大の危機だ。20年いっぱい、この話でもちきりだろう。だから、コロナ危機というレンズを通して、10大リスクを見直す必要があった。1位に挙げた米大統領選も2位の米中デカップリング(分断)も、3位の米中関係も、コロナ危機の影響でリスクが著しく高まる。

まず、1位の米大統領選だが、コロナ危機で選挙プロセスの非合法性を問う声が高まるだろう。年初に発表したリポートでは、勝者がトランプ大統領でも民主党候補者でも、特に僅差の場合、投票結果の正当性をめぐる訴訟合戦が起こり、最終結果が長引くと予測していた。20年11月の投票日までに危機が収束する可能性は低く、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)も続いているだろうから、投票率も下がる。

また、景気刺激策の規模を考えると、米政府が一時的に機能不全に陥る可能性があり、その結果、選挙結果の正当性が問われるリスクが高まる。

こうした点に加え、ウクライナ疑惑をめぐるバイデン前副大統領への調査の政治問題化や、ロシアなど他国が米大統領選に干渉してくる可能性という、もともとのリスク要因がある。コロナ危機で米大統領選のリスクが大幅に高まるのは明らかだ。