技術やテクノロジーが人間の生活を向上するとは限らない

技術やテクノロジーは人間の生活を向上するために存在・発展すべきであり、そうなるように使いこなすべきですが、実際にはそうならない事態がすでに起き始めています。

AIに頼りすぎる人がでてくることです。人間が判断すべきことなのにAIに判断を仰ぐ、勉強をせずにAIに頼ってしまう。AIに頼りすぎることで起こる負の影響は、看過すべきではないでしょう。

また、フェイクニュース生成を容易にするなどの民主主義への影響や、著作権問題、個人情報の問題などもあります。

これからの時代は、仕事においてはもちろん、生活においてもAIを避けては成り立たない状況にますますなっていきます。

その中で、人間はどのように生き、働くべきなのか。「どの職業に就けば、AIに仕事を奪われずに済むのか!」と迷う人が出てくるのは当然ですが、社会全体として、AIを正しく恐れ、正しくコントロールし、正しく使うことが求められるのではないでしょうか。

写真=プレジデントオンライン編集部撮影
佐藤教授と国立情報学研究所のマスコットキャラクター「ビットくん」

おススメできない学部

AIを避けては通れない時代、というと今度は一足飛びに「子供にはAIを学ばせなければ」「小さいうちからプログラミングを習わせよう」「これからはデータの時代だから、データサイエンス職が手堅いのではないか」と考える人も多く、特にデータサイエンス分野は、各大学でも学部や学科の新設が進んでいる流行学部です。

しかし、ここにも陥穽があります。

『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)

もし私がIT業界に興味があるという高校生から「将来のために、どのような学科・学部に行くべきでしょうか」と聞かれたら、ITの知識は不可欠だが、IT以外の知識も必要と答えるでしょう。

まず中国やインドからやってくる大量の優秀なIT人材と競争することになりますし、差別化もできません。そしてITは道具であり、道具を使う対象を知らないと道具は使いこなせません。

例えば機械工学とIT、経済学とIT、文学とITなど、ITを利用する対象となる、IT以外の分野からなる複合分野の専門性が求められるようになるでしょう。

 なお、この状況は生成AIの開発にもいえます。生成AIは、AIだと言われてはいますが、AIの専門家だけではChatGPT並の生成AIを開発することはできません。

OpenAIもそうですが、文章生成AIの開発を手掛ける場合、AIに加えて、言語学も専門性がある技術者が必要ですが、そうした人材が希少であり、各機関や企業で取り合になっている状況です。

では、何を学ぶべきなのか

このように、これからのIT人材を目指す方々には、何か別のドメイン(領域)知識にITを掛け合わせることで独自性や差別化要素を持つことをお勧めします。

AIが流行ると「AIだ!」、データ分析が流行ると「データ分析だ!」と流行りものに飛びついてしまう人はいつの世にも多いのですが、実は物理や経済、哲学など別の領域の学問を身に付けたうえでITやAIをどのように使いうるのかを考える人材の方が、これからは求められることになるでしょう。

このように、AIに仕事を奪われることを警戒するよりも先に、考えるべきことは山ほどあるのです。(第2回に続く)

(インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)
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