生成AIの進化が加速している。筑波大学准教授の落合陽一さんは「ChatGPTより正確さや速度で勝る生成AIが誕生している。一時的にはClaude3が性能面でトップに躍り出たが、現在はどれが覇者になるかが全く読めない、戦国時代へと突入している」という――。

※本稿は、『落合陽一責任編集 生成AIが変える未来―加速するデジタルネイチャー革命―』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

AIチップ
写真=iStock.com/BlackJack3D
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本物を選ぶ「審美眼」が必要

現在、数々の生成AIが生まれています。そんななか、よく質問を受けるのが「生成AIを上手に使いこなせる人と使いこなせない人の差」について。僕自身が考える、両者の一番大きな差は「審美眼」だと思います。簡単に言えば、膨大な出力とねばり強く「選ぶ力」ですね。

生成AIが10個のプロトタイプをつくったとしても、その中で採用するものを選ぶのは人間です。その際、「どれがいいのか」をきちんと精査できる目利きの力が必要になります。でも、意外とこれが難しいものです。

たとえば、動画生成AIで「波の動画をつくって」とプロンプト(指示)を入力し、数十秒もすれば、綺麗な波の動画が1個出来上がります。しかし、本来、波の動きというものは非常に複雑な計算によって成り立っているので、物理シミュレーションを駆使して再現しようとすると、現状の生成AIがつくった動画は、物理法則に基づかないものも多いので物理の専門家から見ると、どこか違和感が生まれてしまうものも多いのです。

「それっぽい自然」が生まれている

しかし、ここからがおもしろい話です。仮に人類の9割が「波」の動きを正しく認知していなかったなら、9割の人は「別にこれでもいい」という判断をするはずです。その場合、正確な動きを再現した動画がなくても十分かもしれませんね。

波の再現動画に限らず、AIで生成された動画は、一見、リアルに見えるけれども、実は本物とはかけ離れていることが多々あります。今後、生成AIで再現されるデータには、そんな「本物っぽく見えるデータ」がたくさん登場することでしょう。そして、その適当なデータでも、人類の大半の人は納得できてしまう。それはもはや「それっぽい自然」、「元来の自然と異なるもの」、すなわち「新しい自然」ではないでしょうか。

昔、研究者たちが自然をコンピュータシミュレーションで再現する場合、緻密な計算を基にした物理現象をベースにしていました。しかし、システムが急速に進化した末、異なる計算プロセスに基づいて生まれた「それっぽい自然」に近づいているというのは、なんとも不思議な話です。