技術の進化に期待しすぎてはいけない

しかしその速度、割合がどの程度なのかを現時点で予測するのはかなり難しいのが現実です。

例えば自動運転車は、アメリカや中国の一部ではすでに公道での運用が始まっており、そうした報道を目にする機会も多いのではないかと思います。しかし、「今にも実現する」かのように実用化を喧伝するのは「煽り過ぎ」の面があります。

確かにアメリカの郊外のように広い道路を、決まった経路で走るだけの自動運転車であれば早期に実現できますが、ヨーロッパや日本のように細い道が入り組んだ環境では、ドライバーなしの自動運転車が走り回るのは相当困難です。

にもかかわらず、日本でも「間もなく自動運転車が席巻する」「ドライバーは要らなくなる」というイメージが広まり過ぎており、これによる弊害も出てきています。

それは運転手不足です。現在、日本ではタクシーやバスの運転手不足が問題視されていますが、この要因の一つに「自動運転実現をあまりに早く言い過ぎた」こともあるのではないかと見ています。

つまり、若い世代を中心に「ドライバー職に就いても、近い将来に自動運転車が実用化して、仕事がなくなってしまう。それでは困るから、ドライバー職は避けよう」という選択が働いている可能性があるのです。

バスのハンドルを握る運転手
写真=iStock.com/GoodLifeStudio
※写真はイメージです

「AIに仕事を奪われる」よりも考えるべきこと

自動車が馬車にとってかわった時代よりは短い期間だとしても、自動運転車が人間のドライバーにとってかわるまでにはまだまだ時間がかかります。

今起きているドライバー不足の問題は、第一に給与を上げれば解決するという労働問題であると同時に、「自動運転車に対する期待と、実現までの間のギャップをどう埋めるのか」という問題でもあるのではないでしょうか。

AIと仕事という点で言えば、実際に手を動かす仕事、人やものに直接触る必要のある仕事、ブルーカラー職や医師などはあまり大きな影響を受けないのではないかと思います。

例えば超高齢社会への変化と介護職不足を補うという視点から「AIを搭載したロボット介護」の実現に対する期待は大きいものの、実際に人に触れる部分をロボット化するのは、介護を受ける側の心理を考えてもかなりハードルが高いと言わざるを得ません。

また、ホワイトカラーに属する多くの仕事に関しては、「AIにとってかわられる」「AIに仕事を奪われる」ことよりも、多くの職業で仕事の質が変わること、報酬が変化することを心配する方が先ではないでしょうか。