「つまらない仕事」しか人間に残らない
まず仕事の質が変わるという点について言えば、ホワイトカラー層の仕事の大部分は文書作成ですが、AIが文書を作ってくれるとなれば、確かにその部分はAIに仕事を担ってもらうことも可能になるでしょう。
詳しくは新著『ChatGPTは世界をどう変えるのか』(中公新書ラクレ)で議論したのですが、ChatGPTなどの生成AIを利用することで、瞬時に文書を作成できるようになるため、社内の文書量は格段に増加します。
文書をチェックするような立場、つまり役職付きの人たちの仕事が増大することになるので、今度はAIが作成した文書をAIに要約させて人間がチェックする、という方向に業務が変化するでしょう。
AIには文書の重要度を判断することもファクトチェックをすることもできないため、どれだけ生成・要約を任せても、最終的には人間が判断・確認するしかないからです。
言い方はあまりよくありませんが、こうなると社内文書に関しては「AIのしりぬぐい」のような作業を人間が担うことになりかねません。多くの人は、少なからずクリエイティブな仕事をしたいと思っているはずで、「AIが作った文書を修正、確認するだけ」の仕事に魅力を感じられるかというのは議論の余地があるでしょう。
置き換えられるという観点で、AIに任ると、人間にとってつまらない・つらい仕事しか残らないという事態になる可能性があります。
人間にとってプラスではないことも起きる
もう一つ、考えておくべきはAIによってさまざまな業種で新規参入が容易になるという変化です。
AIに限らず、技術が発展することによって「人間が蓄積し開拓しなければならない領域が技術に置き換えられる」ことになりますから、テクノロジーが進歩すればするほど専門性の壁が低くなり、新規参入がやりやすくなります。
例えばライドシェアは、コンピュータ、移動体通信、そしてGPSが発達したことによって、地域の道路事情を習得していない運転者でも輸送業務を担うことができるようになりました。
あるいは「生成AIの普及によって消える職業」で必ず名前の挙がるライターやイラストレーターにしても、AIさえ使えれば専門性がなくてもそれらしいものをAIで生成できるようになるため、確かに新規参入は容易になるでしょう。
ただしそれによる影響は、必ずしも人間や社会にとってプラスのものばかりではありません。Aiにより新規参入が容易になれば価格競争となりますし、下積みや経験がなくても「それなりの」成果を出せるとなれば、当然の結果として労働対価の単価が下がるからです。