「もし違う道を選んでいたら…」と考えてみる
3.人生の充実感が高まる
二〇一〇年、前出のクレイ、ガリンスキー、ローズを含む社会科学者たちがノースウェスタン大学の学部学生たちに、進学した大学と、大学での友人の選択についての反実仮想を促した。
もし別の大学に進んでいたら、もしほかの人たちと友人になっていたら、と想像した人たちの反応は、実際に取った選択がいっそう価値あるものに思えてきたというものだった。「反実仮想をおこなうと、人生における大きな経験とこれまでの人間関係がより大きな意味をもつように思えてくる」と、この研究は結論づけている。
こうした効果は、まだ若くて、自分のことばかり考えている時期にだけあらわれるものではない。ある研究によると、人生の重要な経験について反実仮想をおこなった人は、その出来事の意義そのものを意識的に考えた人に比べて、その出来事に大きな意味を見いだすという。
過去の経験の意味を直接的に検討するよりも、「もし~~していれば……」もしくは「せめてもの幸いは……」という反実仮想を通じて間接的に考えるほうがその経験を有意義なものと感じやすいのである。
“後悔”を正しく扱えば強いパワーになる
また、人生の経験について反実仮想をおこなうと、単にその経験そのものを振り返るよりも、強力な宗教的感覚と深い意義を感じることができる。このような思考は、愛国心や組織への忠誠心を強める場合もあるという。
ここで紹介した研究は反実仮想全般をテーマにしたものだが、その中でも後悔とはとりわけ、人生の充実感を高め、充実した人生に向けて生きるよう人々を後押しする効果が大きい。たとえば、過去の行動を後悔することを軸に「人生の振り返り」を実践すると、人生の目標を修正し、新鮮な気持ちで生きられるようになる場合がある。
正しく扱えば、後悔は私たちをよりよい人間にする力をもっている。後悔の力を理解することにより、意思決定の質が改善し、パフォーマンスが向上し、人生の充実感が高まる。問題は、私たちが後悔を正しく扱えない場合が少なくないことだ。