利用すると雑談が生まれる

利用する個人のメリットは、飲料がタダになることだが、導入先に向けては「雑談のきっかけが生まれる」ことも提案する。

「自販機は、1人では黙って使いますが、誰かと一緒に使う場合は会話が生まれやすいのです。そこで『挨拶以上、食事未満』というキーワードを掲げました。ふだん挨拶する程度の同僚をランチに誘うのは気が重くても、自販機に誘うのならお互い気持ちもラクでしょう。導入先からは『おごり行きますか?』と声がけして行く場合も多い、と聞いています」(松本さん)

コロナ禍では出社回数が減っただけでなく、出勤してもマスク姿で執務。昼食時も黙食が奨励されるなど、会話や雑談をする機会が激減していた。その渇望感にも合ったのだろう。

ちなみにこの自販機が使えるのは2人まで。3人以上は構造上の理由で“おごり”とならない。また、ICカード式の社員証が未導入の場合は専用カードの提供で利用できるという。

どの飲み物がいちばん「おごられる」のか

自販機の中の飲料は、もちろんサントリーの商品だが、同社はコーヒー・炭酸系・茶系など、さまざまな飲料を持つ。何が人気なのだろう。

「一番人気は『伊右衛門 特茶』です。体脂肪を減らすのを助ける特定保健用食品で希望小売価格は1本170円。自分で買うには高いが飲んでみたいという理由で選ばれるようです」(松本さん)

他にコーヒーなども人気だが、空調の効いたオフィスのせいか、冬の季節でもホットではなくコールド商品が出るという。

「どんな飲料がどれぐらい提供されたのか、どの時間帯に使われるケースが多いか、といった利用実績をお客さま(導入先)にフィードバックするのも、この自販機の特徴です」

導入先からの反響はどうなのか。

「ありがたいことに『職場のコミュニケーションが活性化した』という声は、よく聞きます。なかには、『一緒に自販機を使った相手と登山部を結成した』『飼っているペットの話で盛り上がった』という声もありました。改善を求める内容には『10秒以内に商品を選ぶのは短すぎる。もう少し延ばしてほしい』というご意見があります」

こう話す松本さんだが、10秒にした効果も挙げる。

「最初の1人が選ぶのに時間がかかると、2人目の選択時間が短くなります。そこで事前に『今日はこれにしよう』と宣言する人もいます。また、同時にうまくタッチできない時もあるでしょうが、社員証をかざすタイミングを合わせる呼吸も、会話の糸口になるようです」

プレジデントオンライン編集部撮影
実際に『社長のおごり自販機』を使用している様子