新紙幣発行によって発生する直接需要は3種類
2024年を目処に千円、5千円、1万円紙幣がそれぞれ一新されることになった。前回の新札発行時には、「新札特需」という言葉が取り沙汰された。実際、紙幣識別機メーカー各社の2004年3月期決算で、日米の新札特需を追い風に、軒並み売上高、純利益とも過去最高を記録した。
しかし、今回の新札発行については、我々の試算によれば、景気に大きな影響を与える程のインパクトはなさそうだ。
新硬貨・新札特需を試算するに当たって、発生するだろうと思われる直接的なコスト(需要)として3つの視点がある。1点目が①新紙幣・硬貨の発行に伴う紙幣・硬貨の発行コスト、2点目が②新紙幣・硬貨に対応するため金融機関のATM、CDの改修、買い替えコスト、3点目が③自動販売機における改修、買い替えコスト、の以上3点である。
①キャッシュレス化が足を引っ張る
まず、日本銀行の通貨流通高のデータを元にして、各紙幣がどのくらい発行されているかを算出した。それによると、現在、1万円札の発行枚数が約99.7億枚、5千円札が約6.6億枚、千円札が約42.0億枚、500円硬貨が約46.6億枚発行済み(2019年3月時点)となっている。
これに1枚当りの発行コストを乗じれば、紙幣発行による直接需要が計算できるが、単価は参考文献(末尾参照)をもとに、現在の紙幣と500円硬貨の1枚当たりの平均コストとして1万円札25.5円、五千円札19.5円、千円札10.4円、500円硬貨64.5円をそれぞれ使用した。次回の新紙幣および硬貨は単価が変わる可能性があるが、現時点では正確に算出できないため、上述の通りとした。
以上より、現環境を基にすれば、新紙幣・硬貨製造には約6114億円程度の需要が見込まれる(図表1)。ただし、キャッシュレス化の進展に伴う貨幣流通量の減少が見込まれるため、実際はここまで特需が発生しない可能性が高い。また、そもそも既存の紙幣も定期的に入れ替えられるため、定期入れ替えのペースで新札も徐々に入れ替えられれば、特需とはならない可能性があることには注意が必要だろう。