上司は部下を「飲みニケーション」に誘っても良いのか。人材育成に詳しいFeelWorks代表の前川孝雄さんは「部下との信頼構築の手段を“飲みニケーション”のみに頼ることは控えるべきだ。それ以外にも、チームワークを向上させる手段はある」という――。

※本稿は、前川孝雄『部下を活かすマネジメント“新作法”』(労務行政)の一部を再編集したものです。

グラスビールで乾杯する人々
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ワーク・ライフ・バランスから「ワーク・イン・ライフ」へ

すっかり浸透してきたワーク・ライフ・バランスへの意識。内閣府は、さかのぼること2007年に、政労使の合意の下に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定。ワーク・ライフ・バランスが実現した社会を「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義。その実現のために、①就労による経済的自立が可能な社会、②健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会、③多様な働き方・生き方が選択できる社会の三つを目指すとした。

ワーク・ライフ・バランスは、その後の働き方改革の流れとも相まって、職場の労働環境を見直すキーワードとして定着してきた。

さらに近年出された、総務省の提言書「ポストコロナの働き方『日本型テレワーク』の実現〜個人・企業・社会全体のウェルビーイングを目指して〜」(2021年8月)の中には、次の記述が見られる。「『ワークライフバランス』という言葉は、ワーク中心で人生というものを考えるニュアンスがあり、今後は、人生のなかに仕事があるという『ワークインライフ』という言葉の方が馴染むという意見もあった」

「ちょっと一杯行こうか」ができない時代

この「ワーク・イン・ライフ」は、より良い生活や人生を中心に据えた上で、その実現に向けて働き方を見直すことを推奨した言葉。少子高齢化や経済のグローバル化で職場のダイバーシティが進んできたさなか、コロナ禍で在宅勤務等のテレワークが一気に広がり、あらためて人生や生活の充実を前提に仕事を捉え直す気運が高まっている。

私が大学で教える学生たちが、社会人になることに対する不安の筆頭に必ず挙げるのが、「会社に拘束される時間が長くなり、自分のプライベート時間が奪われること」。残業や出張、時間外の付き合いや接待などで時間を取られることへの懸念が強い。仕事は頑張りたいものの、プライベートはしっかり確保し、趣味や友人・家族との時間は大切にしたい。若手世代は、そう望む傾向が強くなっていると感じる。上司の皆さんも若手社員の様子から、実感しているのではないだろうか。

昭和から平成の時代には「ちょっと一杯行こうか」と仕事終わりに上司が部下を誘うことは日常的な光景だった。しかし、法制化されたハラスメント防止の観点から、時間外に上司が部下を飲みに連れ出すことを慎むよう、注意を促す企業も出てきている。上司としても、部下との親睦のために良かれと思って取った行動がハラスメントとみなされては不本意だ。また、管理職に、親睦のために会社経費を使うことが認められづらくなってきていることも多く、いまや時間外の上司と部下の付き合いは珍しくなりつつある。