世界から評価されている日本の脚本家
しかし、国内外を問わずドラマには、家族、恋愛、友情、仕事、学園、歴史、ヒューマン、ミステリー、サスペンス、ファンタジー、アドベンチャー、クライムなどのさまざまなジャンルがあり、スケール以外の魅力を持つ作品が存在する。
たとえば、有料の動画配信サービスで韓国は日本の数倍~10倍、アメリカは数十倍~100倍ほど制作費をかけたドラマもあるが、その莫大な予算はすべてのジャンルで必要なものではない。
なかでも、心の機微を丁寧に描いた脚本は、日本のドラマが長きにわたって内外から評価されているところ。特別な設定や大きな出来事に頼らず、わかりやすい喜怒哀楽だけではなく、繊細な心理描写にフォーカスして感情移入をうながすスタイルで人々を魅了してきた。
そのスタイルを作り上げてきたのは主に脚本家であり、日本ドラマのベースを作ったのは、向田邦子、早坂暁、山田太一、倉本聰、市川森一ら昭和の名手と言っていいだろう。それを岡田惠和、大石静、野沢尚、坂元裕二、森下佳子らが引き継ぎ、さらに下の世代にも影響を与え続けている。
また、「1990年代から2000年代にかけて韓国をはじめとするアジアの作り手たちも、日本のドラマ、なかでも脚本を参考にしていた」ことも業界内ではそれなりに知られた話だ。加えて、海外のコンテンツ見本市などでも、アジア、ヨーロッパ、中東などの関係者から評価を受け続けてきた。
2010年代の迷走
ただ、平成の時代が進むにつれて登場人物の心理描写はそこそこに、特別な設定や大きな出来事で視聴者にインパクトを与えるような作品が増えていった。さらに、『HERO』(フジテレビ系)や『ナースのお仕事』(フジテレビ系)のようなシンプルな一話完結の職業ドラマが増え、時間をかけて登場人物の心理を描く作品が減ったことも大きな変化と言っていいだろう。
その背景には、常に世帯視聴率との戦いがあった。録画機器の発達やネットの普及が進んだ2000年代後半から2010年代にかけて世帯視聴率が下がり、それを止めるべくテコ入れされたのが、「クールごとに新作が必要で制作費がかかる」「いい作品ほど録画されて視聴率が得られにくい」ドラマ。各局はジワジワとドラマ枠そのものを減らしていった。
実際、視聴率レースでトップを走る日本テレビは、「ゴールデン帯はバラエティのみ」という編成を選択。さらに、中高年層から手堅く世帯視聴率を得られる刑事・医療・法律のシンプルな一話完結モノが約半数近くに迫るなど、ドラマの武器であった多様性が失われて「つまらない」と言われる理由の1つとなった。
これら2010年代の迷走は、時代に合わない世帯視聴率という指標の弊害が表面化したものであり、テレビ業界の自業自得とも言っていいだろう。テレビ業界は、目先の数字ほしさに本来持っていたドラマの制作力を自ら放棄するような状態を続けていた。
しかし2020年春の視聴率調査リニューアルをきっかけに迷走は終わり、加えて配信再生数なども評価指標に入りはじめたことで、一気に視界が開けていく。