日本のテレビドラマは「海外作品に比べてつまらない」と言われることがある。コラムニストの木村隆志さんは「これだけ多岐にわたるジャンルで、しかも質の高いテレビドラマを制作できる国はない。そうした人は日本のテレビドラマを過小評価している」という――。
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なぜ日本人は日本のドラマを過小評価するのか

いまだ夏ドラマ『VIVANT』(TBS系)の余韻が残る中、秋ドラマが次々にスタートを切り、賛否の声があがっている。

あらためて『VIVANT』の放送時を簡単に振り返ると、主演級キャスト6人をそろえたほか、長期モンゴルロケ、予測不能なストーリーなどが称賛を集め、「日本のドラマもやればできるのではないか」「このレベルなら海外でも戦えそう」などの声が見られた。

2013年に『半沢直樹』(TBS系)や『あまちゃん』(NHK)がヒットしたあとの2010年代中盤から後半にかけてネット上には、「日本のドラマがつまらなくなった」「欧米や韓国のドラマに負けている」という声があがるようになっていた。さらに動画配信サービスの普及などもあって、「つまらない」「負けている」という前提で語る人が増えた感すらある。

そんな人たちが『VIVANT』を見て日本のドラマを見直すような声をあげていたのだろうが、これにはいくつかの誤解がある。過去から現在に至る日本のドラマをフラットな目線で見ていくと、「つまらない」のではなく「一時的につまらなくなっていた」、「海外で戦えない」のではなく「海外で戦うことを前提としないものが多い」ことに気づかされる。

他ならぬ日本人が日本のドラマを過小評価してしまうのはなぜなのか。ここでは誤解されがちな背景を紐解きつつ、その強みと今後の可能性をあげていきたい。

「日本のドラマはつまらない」と言う人の誤解

まず国内外のドラマを問わず、前提として忘れてはいけないのは、「無料地上波のドラマと有料動画配信サービスのドラマを比べるのは無理がある」こと。

視聴者の人数、視聴者層の幅、ビジネスモデル、スポンサー対応、放送時間や表現の自由度などが大きく異なる両者の比較は、無料の地上波連ドラと有料の映画を比べるようなもので、それをもって勝敗や優劣をつけるのは強引だろう。

たとえば、有料の動画配信サービスは映画や舞台と同じように、「自らお金を払うことを選んだ作品だから集中して継続視聴する」というバイアスが入りやすい。無料で思い入れが少なく数分であっさり手放せる地上波の作品との比較はアンフェアではないか。

特に「日本のドラマはつまらない」「海外で戦えない」と言う人ほど、その理由に映像と物語のスケールを挙げがちであり、だからこそ『VIVANT』を見て「やればできる」「戦える」という声をあげた感があった。しかもそのスケール感こそNetflixなどの海外作品が売りにしているところであり、視覚やイメージに訴えかけて集客するという戦略だ。