ドラマ『VIVANT』(TBS系、日曜・午後9時)が好調だ。ライターの吉田潮さんは「主演の堺雅人がまさに適役だ。善人も悪人も演じられる彼の演技に視聴者は毎回翻弄されている。視聴率が高いのも頷ける」という――。

魅力は「半沢直樹」だけではない

堺雅人と阿部寛の共演と聞いて、脳内にひとつの映像が浮かんだ。悩める人々を奇天烈精神科医が翻弄する、奥田英朗原作『空中ブランコ』のドラマ版(2005年・フジ)である。サーカス団の青年(堺)は精神的な問題で、得意技の空中ブランコも失敗続き。紹介されたのは大病院の風変りな医者・伊良部一郎(阿部)。カウンセリングはほぼしない。女好きで注射好き。注射する際に凝視する、ちょっと生理的に破壊力がある。堺が演じるサーカス団員やグラドル崩れの被害妄想も、ヤクザの尖端恐怖症も、興味本位に振り回すことでうっかり治すコメディだった。

あれから18年。このふたりが世界を股にかける諜報員(裏の別班・表の公安)として、日本を救うべく暗躍するとは。今夏話題をかっさらった日曜劇場「VIVANT」。この波にちゃっかり便乗して、俳優・堺雅人の仕事をふりかえってみる。

日本の救世主からヤバい弁護士まで

堺を見ると、どうしても「虚実皮膜」という言葉が浮かんでくる。事実と虚構の間に真の芸術があるというものだが、堺の演技は薄皮一枚とその下の膜(肉)を感じさせるからだ。

「半沢直樹」(2012年・TBS)の主演以降、正しくて優しい人や使命や任務を背負わされる人の役が多くなったのだが、もう少し常軌を逸した有害無益な人物も演じてほしいと思っていた。すっかり寡作の人になっちゃったし。

猛毒な輩で言えば、なんといっても「リーガル・ハイ」、続編の「リーガルハイ」(2012・2013年、フジ)だ。銭ゲバ・毒舌・上から目線の差別主義、八・二分けのちんちくりん弁護士・古美門研介役は、過去一の名演だった。頭の回転が速い人特有の反応の早さと豊かすぎる語彙力、ラジカルでシニカルでコミカルな脳内言語を超絶技巧で垂れ流す古美門というキャラは、堺が演じたからこそ成立したと思う。

日本人が好む共感やときめきや憧れや夢なんてものは一切与えず。威風堂々の嘘つきで罪悪感は1ミクロンももたず。ある意味、完璧な敏腕弁護士だった。