たとえるなら「透明な多面体」

傲慢な上級国民も卑屈な庶民も、天才も凡人も、熱血も冷徹も、スッとなじむ。透明な多面体を想像してほしい。上から見ると円形、横から見ると三角形、正面からは正方形に見えるような多面体を。しかも透明だから塗り方次第で色も変わるし、裏と表の概念も崩れる。堺雅人はそんな役者だ。

傑作であろうと駄作であろうと、良心と気骨のある制作陣が彼に主役を託したい気持ちはよくわかる。

偽善やご都合主義をハートフルやアットホームと思いたい人が納得のいく、正義の味方を違和感なく演じることができる。一方、フィクションのドラマだからこそ、人として大切なものや必要なものが欠如した人間を観たいと思う人の溜飲を下げてくれる役も説得力をもって演じることができるからだ。

これまでの堺作品はざっくり「善玉6割・悪玉1割・日和見3割」といったところだが、今回の「VIVANT」は善か悪か判断しにくい役柄という点が新しい。

堺が演じる乃木憂助が超エリートで無法かつ非道な別班であり、凄惨な過去をもつ孤独な男であり、脳内にもう一人の自分を抱える精神的な脆さもある。そして、テロリスト集団のリーダー、ノゴーン・ベキ(役所広司)の実の息子であり、別班を裏切ったかのように見えた最終章。

詐欺師レベルの知能、大胆不敵さ、巻き込まれ&追い込まれ感、純粋さや丁寧さ、父親との邂逅……。愛国心や人助けは善、殺人や裏切りは悪だが、詐欺師級の暗躍をどうとらえるべきか、視聴者を惑わし続けている。堺のもつ多面体の魅力が凝縮されている気もするんだよね。

先週は、生放送でVIVANT祭りまで開催しちゃったTBSの浮かれっぷり。鼻についたものの、役所広司のみが電話出演というところで、ちょっとほっとした。今夜の最終回で、堺は半沢の呪縛から乃木の憂いへ移行完了。たぶん再び伝説となるわけだが、これをさらに超える役に今から期待しておこう。

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