88歳までリトミックの研修にで出かけていた

繁子さんは88歳まで、どんなに遠方でも、リトミックの研修に出かけていた。リトミックが好きであることは、今も変わらない。だから、子どもたちから「次のリトミックは、いつですか」と聞かれるのだ。

繁子さんが奏でる、変幻自在なピアノのリズムやメロディーに合わせて、自由に身体を動かしていく時間が、子どもたちには楽しくてたまらない。だって、突拍子もないリズムや展開が待っているから。それはもう、わくわくしかない。

撮影=市来朋久
繁子さんのピアノに合わせて子どもたちが体を動かすリトミック(左)と読み聞かせ(右)

絵本を読み聞かせる「語り」も、繁子さんは大好きだ。数年前まで、一人で暮らす家から園まで、徒歩で通勤していた。その15分という時間が、繁子さんにはちょうどいい。

「15分の間に、この絵本はどう話していくのがいいかなーと考えて、語りを覚えながら歩くんです。本番では子どもの反応を見ながら、緩急つけて、高低つけて、リズムをつけて。子どもの反応が、本当に面白いですね」

語りが始まるや、子どもたちは椅子に座る繁子さんの前に、幾重もの輪を作る。じっと真剣に、語りの世界に没入する子どもたち。ちょっと前までは、野生児のようだったのに。

5年生になるとグンと伸びる

「小俣幼児生活団」を出た子どもたちは、小学校に行く。園の生活と小学校の生活は、相当に違う。年長の5歳児には「みんなで同じことをする時間」を1日1時間だけ作るのは、小学校での生活に備えるためでもある。

撮影=市来朋久
読み聞かせの後は手遊びをしたり、お手玉で遊んだり。
撮影=市来朋久

繁子さんと眞さんは各小学校に「申し送り書」を手渡す時には、先に謝っておく。「うちの子達がご迷惑をおかけするかもしれません」と。

案の定、管理主義的な生活に馴染めない子もいるし、「授業が面白くないので、帰ろうと思います」と自由意志を表明する子もいる。通常の幼児教育を受けてきた子どもたちとは、振る舞いが違う。しかし、どの小学校でも必ず、こう言われる。

「小俣の子どもたちはみんな、5年生になると、グンと伸びますから。中学校を意識する頃に、小俣の子は大きく伸びていく。毎年、それがとても楽しみです」

小俣の子はチームワークを作るのが上手く、問題を自分たちで解決する能力が高く、納得すれば、とことんやる。できないままにはしておかない……、こんな小学校からの声を繁子さんも眞さんも、うれしく聞いている。

だから、子どもの一挙手一投足がどうなのか、気になってしまう保護者には、繁子さんは「大丈夫、大丈夫」と笑って応える。

「子どもが困ったことをしたら、『あっ、こんなことができるようになったんだ』って、一緒に喜びましょう。まりちゃん、今日、すごく喜んで遊んでたよ。今度、見にきてごらん」

こんな声かけが、子育てに右往左往する親に、どれほどの安心を与えてくれるだろう。