保育士が辞めないので平均年齢が上昇…
のびのびしているのは園児だけではない。実は、保育士もそうなのだ。繁子さんが笑う。
「結婚しても辞めないし、子どもが生まれても辞めない。だから、どんどん平均年齢は上がっていく。だからもう、ほとんど、私が手を出さなくても……」
園長の眞さんも、母の隣でうなずく。
「園児だけでなく、保育士もここはほったらかしだから。勤務表だって、自分たちで作っている。所帯持ちが多くなったんで、育児休業を取るとか、自分たちで決めていますね。子どものPTAとか授業参観などで休みを取るのは、当たり前なんです。お互いに融通を利かせて、シフトに入る。女性が主体の職場ですから、お互い様なんです」
通常なら子どもの行事ばかりか、急な病気でさえ、女性は職場で謝ってばかり。ここでは、それがない。女性が子どもを持っても、肩身の狭い思いをすることなく堂々と、楽しく働ける。なんと稀有な、いい職場だろう。辞める人が少ないのも、当然だ。
これもやはり、96歳の主任保育士という存在が大きいのではないのだろうか。
「やっぱり、みんな、面倒くさいんでしょう。だから、私を立ててくれて……」
96歳になっても現場に立っているという、大いなる人生のロールモデルを目の当たりに、後に続く者としては、ずっと働いていけるという希望がそこには確かにある。
一流の踊りを習った幼少期
「子どもたちも、私のことは特別扱い。私が言えば、みんな、ピッとなる。子どもはリトミックが好きで、待っていてくれる」
子どもたちにしてみれば、自分のおばあちゃんよりももっと年上の、おばあちゃん先生の弾くピアノや語りを、きっと特別なものと感じている。それは96歳という年齢だけではなく、繁子さんには「本物」が宿っているからだ。だから、リトミックは他の保育士の誰でもなく、繁子さんが担当するのだ。
眞さんが、母に水を向ける。
「リトミックと語りが、一番好きなんだよなぁ。あなたがリトミックを好きなのは、3、4歳に遡るんですよね?」
繁子さん3歳の頃、舞台を鑑賞した時に、客席で立ち上がって音楽に合わせて踊り始めた。それを見た、繁子さんの母は「この子は、踊りが好きなんだ」と、日本における舞踏家の草分けである、石井漠さんの研究室に娘を通わせた。繁子さんの父は早くに亡くなったが、「子どもに関わることは、なるべく一流のものを与えよう」という考えを持っていた。
「40歳で、リトミックの研修に初めて出た時、とても懐かしい感じがして。母はよく、石井先生を見つけてくれたって思いました。そのまま、リトミックの面白さに魅了されて……」