どの英語試験であっても国別のスコア比較は不適切

英語には、compare apples and orangesという表現があります。文字通りには「リンゴとオレンジを比べる」という意味ですが、「本来比べようがないものを無理に比べる」という意味の定型表現です。

国別のTOEFLスコアを比較するのも、まさにリンゴとオレンジを比べているようなものです。「リンゴの皮はオレンジよりも薄い」「オレンジの方がリンゴよりもビタミンCが豊富だ」などと両者の違いを色々と指摘することはできるでしょうが、そのような比較から有益な示唆が得られるかというと、はなはだ疑問です。

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近年ではTOEFLだけでなく、EF Education First社のEPI(English Proficiency Index)という指標が引用されることもあります。EF EPIランキングは「世界最大の英語能力指数ランキング」と謳われており、新聞などの大手メディアでもよく取り上げられます。

しかし、TOEFLと同じように、受験者が無作為抽出されておらず、「その年にたまたまEF EPIテストを受けた人」の英語力の指標にすぎません。そのため、EF EPIランキングを元に、その国の平均的な学習者の英語力を推定するのもやはり不適切です。TOEICやIELTSなど、他の英語試験も同様です。

日本人の英語力が低いのは無理もない

それでは、日本人の英語力の実態はどのくらいなのでしょうか? 寺沢拓敬氏(関西学院大学)は『「日本人と英語」の社会学』(研究社)で、「『日本人』の英語力が国際的に見て低いレベルにあることは事実だが、日本だけが突出して低いわけではなく、東アジアや南欧の国々も日本と同水準である」(寺沢、2015、p.72)と述べています。

平均的な日本人の英語力が、世界的に見て低いレベルにあることには、いくつかの理由があります。その理由の1つは、英語の社会的な位置づけです。日本より英語力が高いアジアの国としては、シンガポールが代表的です。しかし、シンガポールでは英語が公用語の1つですから、シンガポール人の英語力と日本人の英語力を比較するのもやはりapples and orangesです。

シンガポールに限らず、英米に統治された歴史を持つ国では、現在でも英語が公用語やそれに準ずるものとして使われていることがあります。一方で、日本では英語はあくまで外国語の1つにすぎません。日本では日常生活で英語に触れる機会がほとんどないわけですから、日本人の英語力があまり高くないのも、無理はないでしょう。