英語試験の結果から日本人全体の英語力を測れるのか

その理由は、英語試験の受験者は日本人全体の英語力を代表しているとは限らないためです。例えば、日本の大学生の英語力を調べたいとしましょう。最も確実な方法は、日本の大学生全員に英語のテストを受けてもらうことです。しかし、日本に存在するありとあらゆる大学の全学生に同じテストを受けてもらうのは、時間的・金銭的な制約から現実的ではありません。

より現実的な策としては、全国の大学生から無作為に一部を抽出し、その試験結果から大学生全員の英語力を推定する方法が考えられます。ここで重要なのは、英語があまり得意ではない学生から、かなり得意な学生まで幅広く調査対象とする必要があるということです。例えば、日本の大学生全員の英語力を推定したいにもかかわらず、東大生や京大生ばかりからデータを収集したとしたら、その結果は日本の平均的な大学生の実態とはだいぶかけ離れたものになるでしょう。

ごく一部のエリートだけが試験を受けられる国もある

同じ理由で、TOEFLなど英語試験の国別スコアから、その国全体の英語力を推定するのも不適切です。TOEFLは英語圏(特に北米)の大学や大学院に留学するための英語力があるかを測定するためのテストです。そのため、TOEFLをわざわざ受験するのは、英語に関心があり、比較的高い英語力を持っている層に限られるでしょう。そのため、TOEFLスコアの平均点は、その国の平均的な英語学習者の実情とはかけ離れている可能性があります。

また、TOEFLは受験料が非常に高額(2023年時点で245米ドル)であることにも留意すべきです。国民の平均所得が低い国であれば、TOEFLのような高額な英語試験を受けるのは、金銭的に恵まれたごく一部のエリートだけでしょう。

国によって主な受験者層が異なる(=一部のエリートしか受けない国もあれば、そうでない国もある)ため、国ごとの平均点を比較することにはあまり意味がありません。日本の中堅大学に通う学生の英語力と、海外のトップ大学の学生の英語力を比較して、「日本の大学生の英語力は低すぎる! 日本の英語教育は改善すべきだ!」と騒いでいるようなものです。