日本語ネイティヴにとって英語の習得が難しい言語学的理由
2つ目の理由は、英語と日本語の言語的な相違です。例えば、英語の母語話者にとって、スペイン語・イタリア語・オランダ語などヨーロッパ系言語は比較的簡単に習得できる一方で、アラビア語・中国語・韓国語・日本語などは習得に多くの時間がかかることを示すデータがあります。この結果は、母語と言語的に距離が近い(=共通点が多い)外国語の方が、そうでない言語よりも習得が容易であることを示唆しています。
ヨーロッパ系の言語を母語とする学習者にとって、英語の習得は比較的容易です。フランス語・ドイツ語・スペイン語などを学習された経験のある方は、英語との様々な類似点に気づかれたことでしょう。これらの言語は歴史的にも英語と結びつきが強いため、母語の知識が学習に役立つことが多いのです。日本語話者が中国語を学ぶときに、漢字の知識が役立つことがあるのと同じです。
一方で、日本語と英語はかなり距離の離れた言語で、相違点が非常に多くあります。例えば、「英語ではアルファベットが使われるが、日本語はひらがな・カタカナ・漢字を使う」「英語には冠詞があるが日本語にはない」「英語では可算名詞と不可算名詞を区別するが、日本語では区別されない」「英語には前置詞があるが、日本語にはない」「英語の基本的な語順はSVOだが、日本語ではSOVである」など、枚挙に暇がありません。このような事情を考えると、日本人の英語力が世界的に見て低い方に位置するのも無理はないでしょう。
英語話者も「フランス語を6年も学んだのに」と嘆く
今でこそ英語は国際的な言語としての地位を確立していますが、今後も英語の覇権が続くとは限りません。もし、数十年後、英語に代わって中国語が国際的な共通語となったとしたら、漢字の知識が生かせる日本人は、「世界に名だたる外国語達人」として注目を集めているかもしれません。
そして、「日本人はなぜこんなに外国語が得意なのか」「日本の外国語教育はなぜこんなに成功しているのか」という秘訣を探るため、世界各国から日本に視察団が押し寄せているかもしれません。
ちなみに、日本では「中学・高校と英語を6年間も学んだのに、ちっとも身につかなかった」とよく聞きますが、このような不満は日本に特有ではありません。第二言語習得の分野で著名な研究者であるパッツィ・ライトバウン氏(コンコーディア大学)は、「フランス語を6年学んだのに朝食も注文できないという不満は、英語圏でよく聞かれる」と述べています。外国語に苦手意識を抱えているのは、日本人だけではないのですね。