従業員の離職を抑えると、3倍の成長スピードになる可能性

設定とは、再現性のあるものをどういう人が喜んでくれるか、その「ターゲット」のことです。

一方、設計は「こうしたらこうなる」という原理原則に基づいた「マニュアルと環境で再現できるもの」(ビジネスモデル)になります。

まず設定とは、簡単に言うと「ターゲット」のことですから、ここでは「疲れ切った美容師」ということになります。

カードゲームに例えれば、手持ちは「疲れ切った美容師」というカードしかないわけですから、そのカードで勝つ方法を考えなければなりません。

この場合、「キングさえ持っていれば……」とか「クイーンが欲しい」といった無い物ねだりは無意味です。

では、疲れ切った美容師たちを戦力にして勝つためには、どんな制度を設計するべきなのでしょうか?

そうした美容師たちに対して、どういった制度を設計すれば、喜んで働いてもらえるのでしょうか?

なぜ、お店を辞めてしまうのか?

僕のところに相談に来てくださる美容室のオーナーさんに、「今までに何人ぐらいの美容師が辞めていきましたか?」と聞くと、「だいたい10人ぐらいです」とおっしゃる方が多いです。

そこで、「仮にその10人が辞めなかったとしたら、業績はどれくらい上がっていると思いますか?」と聞くと、たいてい次のように答えます。

「おそらく、今の3倍は売上が上がっていると思います」

みんな分かっているのです。

本当は3倍のスピードで成長できるのに、3分の1になってしまっている……。

その大きな原因の1つは、従業員の離職を抑えることができない点にあります。

「あの人さえ辞めなければ、うちの会社の業績はもっといいはずなのに……」

もしあなたが経営者であれば、思い当たる節があるのではないでしょうか?

いったいどうすれば、従業員の離職を抑えることができるのでしょうか?

写真=iStock.com/Svitlana Hulko
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美容師が退職する3つの理由

社員面接などの際に、「なぜ前のサロンを辞めたのか?」を丹念に聞いていくと、その理由は、主に次の3点に集約されます。

①休みを取れない
②給料が少ない
③人間関係が気に入らない

③の「人間関係の煩わしさ」は、美容室に限ったことではありませんが、①と②は、この業界の「定番の悩み」と言えるでしょう。

大事なのは、これらの要因を1つひとつ潰していくことです。

なぜなら、こうした「美容師の悩み」を逆手にとると、①~③の問題を解決してあげることさえできれば、よほどのことがない限り、お店を辞めないからです。

経営者に求められるのは、「いくつもの悩みを抱えた従業員に対して、全てクリアさせる労働環境を設計してあげること」です。

序章で「置きに行くことが大事」という主旨の話をしましたが、従業員が求めているのは、まさに①~③の問題を解決してくれる職場であって、そうした器(設計)を作ることが、僕が言う「置きに行く」ことなのです。

では、先ほどの3つの問題をクリアさせる労働環境を、どのように設計すればいいのでしょうか?

順を追って、見ていくことにしましょう。