力強い援軍が加わった

一方で、体外受精では複数の卵子に施術を行い、受精した卵子のうち、どれを子宮に戻すのかが、現状は医師の勘に任されています。その際に、子宮に戻されず廃棄される受精卵が今でも普通にあるわけです。とすれば、勘ではなく、科学的に最善を尽くすだけだ、という考え方もあります。

こうした両論があるため、日本では、着床前診断について、長らく論議が続いてまいりました。

それがようやく、2016年2月に大規模臨床試験が始まりました。その後2022年、日本産科婦人科学会は対象範囲を広げて運用することを発表しました。

前述したように、イギリスやドイツでは、着床前診断が認められて数年で、40代の出生率が一気に倍増しました。倫理的な面での議論は残りますが、不妊に悩む女性にとっては、心強い援軍に他ならないでしょう。

卵子の検査で流産を予測する研究

さて、不妊治療の明日はどうなっていくのでしょうか。そのヒントとなるような、最先端の研究成果にも触れておきます。

着床前診断についてより良い方法がお目見えしています。それは、受精する前の卵子の状態で流産や遺伝子レベルの病気について、その発生が予測できる、というもの。ハーバード大と北京大の共同研究として、2013年に発表されました。こちらであれば、まだ卵子であり、「生命」以前の段階のため、心理的・倫理的障壁は低くなるでしょう。さらに、着床前診断のように受精卵に穴を開けてその中身を取り出して検査するわけでもありません。受精卵とペアで卵巣に育つ極体(じきに体に吸収される)を採取して診断します。つまり、卵へのダメージもほとんどないのです。こうした処方が普及すれば、障害や流産の問題もかなりの部分が解決することになるでしょう。

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