流産を劇的に減らす方法

着床前診断は、名前が似ているので誤解されそうですが、出生前診断とはまったく異なります。着床前診断は、体外受精した受精卵に遺伝子検査を行い、問題の少ないものを子宮に戻す施術です。これにより、流産や障害の発生が抑えられるようになるというものです。

妊娠とは、受精卵が子宮に着床した段階から始まるもので、その前の受精卵は正確に言うとまだ「命の誕生」とは言えません。こうした段階で行われる施術のため、患者の精神的ストレスも非常に少ないと言えるでしょう。

もともとこの手法は、障害の発生を抑える目的ではなく、流産を減らすために考案されました。欧米での歴史は30年近くにもなります。

そもそも、流産はその原因の8割程度が受精卵に問題があるために起こると言われています。卵に正常に育っていく力がなく、途中でコースアウトしてしまうのです。

そこで、受精卵の段階でそれを調べて、流産してしまう卵子を子宮に戻さないように、着床前診断が行われています。とりわけ、40歳を超えると流産の確率は高まるので、この施術は欧米各国で取り入れられています。

着床前診断への異論

着床前診断はアメリカやタイでは早くから導入されていました。2010年頃にはイギリスとドイツでも認可され、それ以前と比べると、40代の出生率が50%近くも上昇した、というデータもあります。

高齢で不妊治療をする女性にとって、大きな味方となってくれる可能性が高いといえるでしょう。

ただし、この診断・処置についても、異論はあります。

たとえば、受精卵といえどもひとつの命である、という意見。

また、受精卵に手を加えて診断を施すために、安全性が確保できないのではないか、という意見。

そして、「命の選別」という問題――流産確率が高いと診断された受精卵でも、実際には出産まで進めるケースも少数はあるのです。ただ、そうした場合、生後まもなく命を終えることが多く、成長できた時でも、ダウン症などの障害が残ります。とすると、この処置により受精卵を選別することは、すなわち「短命者」や「障害児」の生きる権利を侵害していることになるというのが、反対の趣旨です。

遺伝子工学の概念
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