※本稿は、岡瑞起『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)の一部を再編集したものです。
全員がVIP待遇の状態
私は以前、仕事でいわゆる富裕層の方々と3日間過ごす機会がありました。彼らにはお付きの人が必ずいて、朝起きてから夜寝るまで、すべてをサポートしてくれます。
朝、LINEで「今日の予定はこうです、まずホテルの1階に降りてきてください」と連絡が来ます。下に降りるとお付きの人がすでにいて、「こちらです」と案内してくれます。外に出ると車が待っています。どこに向かっているのかもわからないまま、連れて行ってもらいます。
自分で考える必要は一切ありません。驚いたことに、その待遇にすぐに慣れている自分がいました。最初は「申し訳ない」と思っていたのですが、3日目にはそれがあたりまえになっていたのです。
ハイパーパーソナライゼーションが究極まで進んだ世界は、まさにこの状態です。全員がVIP待遇になります。
たとえば、引っ越しすると考えてみましょう。本当に大変です。
住所変更の届け出、水道、電気、ガスなど、一つひとつ自分で手続きしなければいけません。でもAIエージェントがいれば、「1カ月後に引っ越します」と言うだけで、すべて自動的に処理されます。
ガスの開栓など立ち合いが必要な場合は、「この日のこの時間に在宅してください。他の予定はすべて調整しておきました」と言われます。
「自分で考えて動く」感覚が鈍る
すべてを先回りして情報が処理されます。優秀な秘書がずっと横にいるイメージです。
冒頭でお話しした3日間の体験から戻った後、自分でコンビニに行くのすら、なんだかぎこちなく感じました。たった3日で、「自分で考えて動く」感覚が鈍っていたのです。
お金があるのに生活する力が失われていく――AIエージェントが全員に行き渡った世界では、私たちはみんな、似たような状態になるかもしれません。
今でさえ、スマートフォンがないと外出するのが不安な人は少なくないはずです。どうやって目的地に行けばいいかわからない、電話番号も覚えていない、地図も読めない。
しかしスマートフォンは、まだ私たちが能動的に情報を取りに行く道具です。検索するにしても、自分で言葉を入力しなければいけません。一方、AIエージェントは、こちらから何もしなくても、先回りして情報を提供してくれます。
危ういのは、便利過ぎることです。一度経験すると、あっという間に依存してしまうはずです。

