メールをAIにチェックさせる新入社員

ある大手企業の管理職から聞いた話があります。

最近の新入社員の中に、メールを送る前に必ずAIにチェックさせる人がいるそうです。「この敬語で合っていますか?」と確認してから送る、一見、丁寧で慎重な姿勢です。

たとえば、返信の期限を過ぎている取引先にメールを書く場面がありました。普通なら、「お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認いただけますでしょうか。どうぞよろしくお願いいたします」といった書き方をするでしょう。

ところが、その新入社員は、自分で書いた文章をAIに見せ、「正しい敬語です」と返ってきたので、そのまま送ったそうです。その文章はこうでした――「通常ですとすでにご返信をいただいております」

文法的には間違っていません。敬語も正しいです。

でも、読んだ相手はどう感じるでしょうか。本来は状況を考えたり、言い方に気をつけるべき場面なのに、それが抜け落ちてしまいました。

AIは、敬語が文法的に正しいかどうかはチェックできます。

ただ、「この言い回しは、相手にどう受け取られるだろうか」という微妙なニュアンスは、なかなか判断できません。また、「慇懃無礼」という概念、つまり丁寧すぎることがかえって失礼になるという感覚は、今のところAIにはありません。

自分の判断に自信が持てなくなってしまう

その上、AIに頼り始めると、自分で文章を書くことをためらってしまうかもしれません。

岡瑞起『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)
岡瑞起『AIの時代に頭がよくなる人悪くなる人』(日経BP)

「AIを通さないと、間違った敬語を使ってしまうかもしれない」「変な文章を送って恥をかくかもしれない」と一度でも思ってしまうと、AIなしでは一通のメールも送れなくなりかねません。自分の判断に自信が持てなくなってしまうのです。

これが常態化すると、自分の生の言葉で話せなくなります。たとえば会議の場で意見を求められたとき「あとで(AIを使って)ちゃんと考えをまとめてから伝えます」とその場での発言を避けてしまうかもしれません。

言葉は、その人そのものです。その人の人柄や、相手への気持ちがにじみ出ます。

もうひとつ心配なのは、人間からの率直なフィードバックに耐えられなくなるかもしれないことです。AIは基本的に人間を否定しません。常に優しく受けとめてくれます。

その心地よさに慣れたとき、私たちに何が起こるのか――「依存」がもたらす深刻なリスクについては、(本書の)第3章で詳しくお話しします。

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