10人で100億円稼ぐビジネスモデル
アメリカをはじめ、なぜ世界でプラットフォーム戦略が注目されているのでしょうか。
日本のように今後、人口が増えないと思われる成熟した国では、これまでのような経済成長は期待できません。縮小しつつある市場でシェアを取り、顧客1人当たりの売り上げをアップしようとすれば、楽天のように顧客を会員化して、データベースマーケティングを駆使することが、ますます重要になります。
プラットフォーム戦略とは、「1人で1億円稼ぐのではなく、10人で100億円を稼ぐビジネス」をつくること。複数企業とアライアンスを組むことで、レバレッジを効かせることができるのです。今後、各企業は、自前のプラットフォームを構築するか、他社のプラットフォームに参加するか、そのどちらかを選ぶことになるでしょう。
あらゆる産業がプラットフォーム化して、コンピューター、家電、放送、通信といった既存の産業の垣根がとり払われる。ある日突然、自分が働いていた産業が消滅することも考えられます。たとえば、すでにSNS(ソーシャルネットワークサービス)と連動した家電の開発なども始まっているのです。
自動車が、ディーラーではなく家電量販店で販売される日も来るかもしれません。将来は電気自動車本体は安価で販売または無償で貸し出し、メーカーは電池交換や充電料金で儲けるというビジネスモデルになっても不思議はないのです。
ここで心配なのは日本の現状です。グローバルなプラットフォーム戦略において、日本企業は完全に出遅れている。ハイテク製品メーカーがひしめいているにもかかわらず、世界規模のプラットフォーム構築で成功したのは、任天堂の「Wii」やソニーの「プレイステーション」など、家庭用ゲームの分野だけです。
その原因は「モノづくりこそが主役であり、ソフトウエア開発は下請け」という“メーカー発想”にあるのではないでしょうか。
もはや、ハードとしての製品の性能を高めるだけでは、消費者の支持は得られません。最新のコンテンツを提供するネットワーク型デバイスやソフトウエアの重要性が増しているのに、日本企業の多くは、「まずハードありき」のメーカー発想から脱却できていないのです。
教訓となるのが、パソコン市場におけるIBMの失敗です。“巨人・IBM”がマイクロソフトに覇権を奪われたのは、ハードメーカーとしての自社の地位を過信していたせいだといわれています。ソフトウエア会社を支援し、彼らと共栄しようとするプラットフォーム戦略思考が欠如していたということでしょう。
メーカー発想とプラットフォーム戦略思考の最大の違いは、「将来の市場の拡大を見込んで、リスクをとれるかどうか」にあると思います。
研究開発費などをあらかじめ上乗せした価格で販売するのがメーカー思考です。それに対しプラットフォーム戦略思考では、将来的に全体のパイが増えることを想定した戦略的な価格設定をするので、当初は赤字になるかもしれません。
実際のところ、事業部制を採用している組織では、これはなかなか難しい(図参照)。
「ゲーム機事業部は赤字でも、あとでソフトが売れるから大丈夫」といっても、責任の押しつけ合いになる可能性はある。売り上げ目標を達成できなかったゲーム機事業部にはボーナスが出ない、という事態になってはたいへんです。
つまり、プラットフォーム戦略へとシフトするためには、価格戦略から社員の評価制度まで、経営戦略の大幅な見直しが必要となるのです。