アップルにのまれた音楽産業の悲劇

これからの企業戦略は、プラットフォームを抜きにしては考えられません。ですが、他社のプラットフォームに参加する場合には、注意すべきことがあります。先に述べたように、プラットフォーマーには情報も金も集まります。圧倒的な「勝ち組」となったプラットフォーマーは、ともすれば自己の利益や縄張りを拡大しようとする。こうした傾向を「プラットフォームの横暴」と呼んでいます。

音楽配信システムというプラットフォームを握ったことで、アップルが音楽産業を牛耳るようになったのは、その一例です。当初はアップルも「うちにやらせてみてください」と低姿勢で“お願い”していたのでしょう。それがいまや、楽曲販売ではウォルマートを抜いて世界最大の規模になってしまった。こうなるとレコード会社は、アップルのプラットフォームに依存せざるをえない。仮に、一方的に手数料を値上げすると言われても、従うほかないでしょう(図参照)。

しかもアップルは、利益率の高いiPodやiPadといった端末で独占的に稼ぎ、電子書籍の分野でも台頭している。まさに一人勝ちの状態ですが、これは、著作権管理ソフトを有していた、音楽業界とは畑違いのパソコンメーカーだから可能だったのかもしれません。

同業者から「組みましょう」と提案されても警戒するのがあたりまえ。しがらみのない異業種のほうが、むしろ都合がいい。たとえばソニーの場合、グループ内にソニー・ミュージック・エンタテインメントがあるため、社内から反対の声が上がることも十分予想できます。

それに利用者から見れば、聴きたい音楽が便利に手に入るのなら、CDであろうと、ネット配信であろうと、あまり関係がない――アップルは、利用者のそんな「根源的な欲求」を理解して、戦略を立てたのではないでしょうか。

異業種の参入者による「横暴」を許さないためにも、「自分たちのビジネスの本質とは何か」を突き詰め、戦略を再検討することが大切なのです。

また、プラットフォームには栄枯盛衰があることも忘れてはいけません。あのグーグルでさえ、訪問者数シェアで、ついにフェイスブックに抜かれたのです。世の中の動きをいち早くキャッチして、つねに進化する必要があるでしょう。